第一章:刹那、尊き日々の残影/02
そして私立
――――二〇〇三年式、日産・フェアレディZ。
型式にしてZ33型、戒斗が普段から乗り回しているいつもの愛機だ。今日も今日とて
だが……今日はそんなZの後ろに、真のGSX‐R400も付いて来ている。
「うわー……なんかすげー懐かしい気分……」
校門前に停まった二台。戒斗がエンジンを切ったZから降りる中、同じくエンジンを切ったGSX‐R400に跨がったまま……黒いフルフェイス・ヘルメットを脱いだ真が、懐かしい学園の校舎を見つめながらボソリとうわ言のように呟く。
彼女も戒斗同様、この学園の卒業生だ。翡翠真にとっても、この学園は……私立神代学園は、懐かしの母校なのだ。
だからこそ、彼女は久し振りに訪れた母校を前にして、こんな郷愁の視線を校舎に向けていたのだった。
「そうか、真はずっと来てないのか」
「卒業式以来だぜ。っつーかよ戒斗ぉ、オメーほど頻繁に来る奴の方が珍しいんじゃねーのか?」
「まあ、かも知れんが」
戒斗が小さく肩を揺らす中、真は長い脚を翻してバイクから降り。そうすればZに寄りかかる戒斗の方に近寄りながら、遠巻きに校舎を見つめながら……懐かしそうにこんなことを言う。
「いやー、今となっては妙に懐かしいなあ」
「お互いロクでもないことしかしてなかったからな」
「全くだぜ。いやーでも懐かしいな。アタシらさ、よく屋上でサボってたよな?」
「ああ、あそこは俺たちにとっての楽園だった」
「そういえばさ、お前がコピーした屋上の鍵……今はどうなってんだ?」
「ん? あの鍵なら卒業式の日に、アンジェにあげたよ」
「わお……アンジェちゃん貰ってくれたのか」
「意外か?」
「そりゃ、意外も意外よ。だってアンジェちゃんってアタシら不良と違ってさ、スーパー優等生じゃん? 文武両道で成績抜群、オマケに人柄も最高。非の打ち所のないタイプだからさ。意外なんてモンじゃないって」
「ま……言われてみればそうかもな」
「で、アンジェちゃん使ってんの? 例の鍵」
「ちょくちょく使ってはいるらしいぜ」
「マジかよ」
なんて風な会話を、二人でZのボディに寄りかかりながら交わしていると。そうしている内に遠くの校舎からチャイムが鳴り響いてきた。
放課後の訪れを告げる、そんなチャイムの音色だ。
それが鳴り渡れば、暫くもしない内に校門の向こう側から……見慣れた二人が歩いてくる。
片方はセミショート丈に切り揃えた綺麗なプラチナ・ブロンドの髪を揺らす、可愛らしい女の子。そしてもう片方はツーサイドアップに結った赤髪の、物凄い長身のスラリとした女の子だ。
当然、それはアンジェリーヌ・リュミエールとセラフィナ・マックスウェル……アンジェとセラの二人だった。
「カイトー、ただいまっ!」
「おかえり、アンジェ」
戒斗を見つけた途端、小走りで駆け込んできたアンジェが彼の胸に飛び込んできて。戒斗も戒斗で慣れた調子でそんな彼女をサッと受け止める。
「って……真さんだ! えっへへー、久し振りっ!」
「おうアンジェちゃん、お久し振りの久し振りってな。ンだよ、相変わらずお熱いこったねぇ」
そうして戒斗の胸に飛び込んだ後、真に気付いたアンジェが笑顔で挨拶してくるから、真もいつもの調子でそんな風に挨拶を返す。
「アンタら、相変わらずの平常運転ね……」
「セラも、おかえり」
「はいはい、ただいま。それで戒斗、そっちはどちら様かしら?」
そうしていれば、後から追いついてきたセラが呆れ半分といった調子でそう言ってきて。そんな彼女を同じように出迎えてやれば、セラは戒斗に隣の彼女……翡翠真が何者なのかと問うてきた。
そういえば、セラと真はこれが初対面だったか。
「おっと、失敬失敬。アタシは翡翠真ってんだ。戒斗の野郎とは中学からの……ま、腐れ縁って奴でな。今は同じ大学に通ってる。そういう君はセラちゃんだろ? 戒斗からちょくちょく話は聞いてるぜ」
問われた戒斗が答えようとした矢先、真が自らそうやってセラに自己紹介をした。
「へえ? 戒斗ってばアタシの話題なんてしてるんだ」
「話題に上がることは、まあちょくちょくあるな」
「……まあいいわ。知ってると思うけれど、アタシはセラフィナ・マックスウェル。セラで良いわ。よろしく、翡翠さん」
同じように自己紹介で返し、スッと手を差し出して握手を求めるセラ。
そんな彼女に真は「アタシも同じように真で構わねえよ、その方がお互いフェアだろ?」と笑顔で言いつつ、差し出されたセラの手をサッと握り返した。
「折角だしさ、真さんもこの後お店においでよ!」
とまあ、そんな具合にセラと真がお互いに自己紹介を終えた後。戒斗に抱きついたままのアンジェが真にそんな提案する。
「今日はどのみちセラも来てくれるみたいだからさ。折角だし、人数は多い方が楽しいよ?」
続く彼女の言葉曰く、どうやらそういうことらしい。
この後、セラが店に……戒斗の実家でもある喫茶店『ノワール・エンフォーサー』に来てくれる約束になっていたそうだ。だったらついでに、真も一緒に来たらどうかと……アンジェはそう提案したのだ。
確かに、どうせなら人数は多い方が楽しい。アンジェと同意見の戒斗も「そうだな」と肯定的な相槌を打っていた。
「おう、だったらお言葉に甘えて!」
とすれば、真もそんなアンジェの提案を二つ返事で快諾してくれる。
そんなこんなで、戒斗の実家たる純喫茶『ノワール・エンフォーサー』に集まることにした一同。アンジェは戒斗が乗ってきたZの助手席に乗り、セラと真は各々のバイクでそれぞれ店に向かうことになったのだった。
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