第一章:刹那、尊き日々の残影/01
第一章:刹那、尊き日々の残影
――――私立御浜国際大学。
郊外に存在する、不必要なまでにだだっ広いキャンパスを誇る私立大学だ。
講義時間終了を告げるチャイムの音色があちらこちらで鳴り響く、そんな夕刻頃のキャンパス内。講義を終えた学生たちがぞろぞろと出てくる中、第四講義棟のとある講義室から……二人の男女が気怠そうな調子で出てきていた。
「あー! 疲れた疲れた。アタシはこれで終わりだけどさ、戒斗は?」
「俺も今日はこれで終了だ」
中学時代からの腐れ縁な二人、大学では何かと一緒に行動することが多い二人はそんな取り留めの無い会話を交わしつつ、今日も今日とて怠そうに講義室から出てきていた。
他の学生たちに混ざって講義室を出て、そのまま廊下を歩き。エレヴェーター……は混んでいるから、階段を使って一階まで降りる。後はそのまま第四講義棟を後にして、第一駐車場まで直行だ。
そんな道すがら、無意味に広いキャンパスを歩きつつ……戒斗と真はやはり取り留めの無い会話を交わしていた。
ちょうど――――こんな風にだ。
「なあ戒斗、結局のところ単位ヤバいのか?」
「逆に訊くが、ヤバくないと思うか?」
「まー……だよな。お前らしいっちゃお前らしいか」
「いつものことだ、もう慣れたさ」
「いや慣れるのも困りモンだけどよ……アレだったらさ、幾つか代返してやろうか?」
「ありがたい話だ――と言いたいところだが、流石にそれは真に悪い。遠慮させて貰うよ」
「お前、変なトコで律儀だよな……っつーか、別に気にすることねーって。どうせアタシは出るつもりの講義だし、自分の書くついでにお前の出席カードもちゃちゃっと書くだけだからさ」
「それでも、な。俺にも良心の呵責ってのがある」
「あのなあ……」
「サボり魔にはサボり魔なりの矜持ってモンがあるのさ、真にも分かるだろ?」
「そういうモンか?」
「ああ、そういうものだ」
「んー……まあなんでも良いけどよ」
とまあ、こんな会話を交わしている内に二人は何だかんだと第一駐車場まで辿り着いていて。真はその駐車場にある駐輪場、そこに停めた自分のバイク――――赤と黒のカウルが目を引く、一九八八年式のスズキ・GSX‐R400に寄りかかりながら、ふと何気ない調子でこんなことをひとりごちていた。
「そういえば、ずっとアンジェちゃんの顔見てないよなあ」
と、本当に何気ない調子で。唐突に思い出したかのように、真はバイクに寄りかかりながらボソリと呟く。
「戒斗はこの後、いつも通りアンジェちゃん迎えに行くんだろ?」
「ん? ……ああ、そうなるな。時間も時間だし、今から行って丁度ピッタリぐらいか」
続けて真に問われれば、戒斗は自分の車……Z33のキー片手に左手首の腕時計に視線を落とし。三本の針が刻む時刻を見つめながらそう答える。
答えてやれば、真はニヤリとして……戒斗にこんなことを問うていた。
「――――だったらさ、アタシも付いていって良いかな?」
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