第十二章:白き流星/01
第十二章:白き流星
「――――さて、場所は此処で合ってるかな」
赤と白のド派手なバイクを駆って突然この場に割って入ってきたのは、まさに二枚目と呼ぶべき爽やかな風貌の好青年だった。
現れたバイクは、二〇一八年式のドゥカティ・959パニガーレコルセ。ステルス戦闘機のように鋭角なカウルが特徴的なバイクに跨がって、その青年は唐突にこの場に滑り込んできたのだった。
「おっと……少し遅刻してしまったようだね」
砂埃を巻き上げながら派手に横滑りして停まったバイクと、それに跨がる青年。
ライダーの青年は被っていた白いフルフェイス・ヘルメットを脱ぐと、唖然とするSTFヴァイパー・チームや戒斗たちの様子と……そして遠くで未だ燃え盛るバット・バンディットだったモノを見つめながら、やれやれと肩を竦めてそう言う。
――――
現れた彼は、確かにあの篠崎潤一郎だった。
日本屈指の大財閥たる篠崎財閥の当主・篠崎十兵衛の孫にして、秘密結社ネオ・フロンティアの幹部。その彼が、なんの前触れも無くこの場に現れた青年の正体だ。
身長一八三センチの長身痩躯な体つきに、彫りの深い……品の良さと底抜けなヒトの良さが滲み出た、何処かお坊ちゃまっぽいような垢抜けない顔立ち。パーマがかった少し丈の長い黒髪を揺らしながら、潤一郎はこの場に集うP.C.C.Sの面々を飄々とした態度で眺めている。
「おいおい、何の用だお坊ちゃん?」
バイクに跨がる潤一郎に対し、ウェズは戸惑いながらも……しかし警戒した様子でMCXライフルの銃口を向けながら問いかける。
「ん? あーっと……僕の用事なら半分は済んでしまったよ。尤も、望まない形でだけれど」
すると潤一郎はそう言って、遠くで燃え盛る炎を……バット・バンディットが爆死した際に生じた炎をピッと指差す。
「僕の役目は、あの子の監視役だったんだ。ちょっと目を離した隙に死んじゃったから、もう監視も出来ないけれどね」
「ッ! お前、まさかあの連中の仲間か!?」
ハッとするウェズに呼応して、周りに集っていたヴァイパー・チームの連中も一斉に潤一郎目掛けてライフルを構える。
だが潤一郎は臆した様子もなく、十数挺のライフルの銃口に睨まれながらも、それでも飄々とした態度を崩さないまま「姉さんのことかい?」とわざとらしく言って、
「あっと、名乗るのが遅れてしまったね。僕の名は篠崎潤一郎。顔見せは済んだって言ってたから……姉さん、篠崎香菜のことはもう知っているよね?」
「奴らの一味とあっちゃ話が早えぜ! ようお坊ちゃん、俺たちにご同行願おうか!!」
「拒否権は?」
「あると思うか?」
凄むウェズの言葉に「だろうね」と潤一郎は肩を竦めて。そうすれば何気ない仕草で、羽織る厚手の白いジャケットの懐から自動拳銃を抜き撃ちした。
「ッ!」
本当に何気ない動作だったから、ウェズも他の皆も一瞬だけ反応が遅れてしまう。
そんな彼ら目掛けて、潤一郎は銀色に光るその拳銃――――ステンレスの肌が妖しく煌めく、オートマグⅡ自動拳銃を躊躇なくブッ放した。
ズドン、ズドンと軽めの銃声が響く。
ギリギリのところで反応が間に合ったから、ウェズも皆もすんでのところで潤一郎の銃撃を避けてみせたが……それでも、怯んだせいで反撃は遅れてしまう。
「ははっ、思ったより良い動きだね!」
それぞれ散り散りになって身を隠すウェズたちに向かって、潤一郎は右手一本で構えたオートマグⅡを笑顔で連射する。
放たれた二二口径ウィンチェスター・マグナム弾がウェズたちの隠れる鉄柱や、ドラム缶に弾けては火花を散らし。そうしてバイクに跨がったまま拳銃を撃ちまくりながら……潤一郎はふとした時に「ふむ」と自分の拳銃を見つめ、唸る。
「とはいえ、これでは芸がないかな」
潤一郎はひとりごちると、今まで撃ちまくっていたオートマグⅡを懐に収め直し。白いズボンに包まれた長い脚を翻しながら、跨がっていたバイクより降りてみせる。
そうして廃倉庫の中に立てば、再び懐に右手を突っ込み……今度は真っ白い、奇妙な形をした大きな拳銃のような物を取り出した。
「アレは……!?」
潤一郎が取り出した奇妙なそれを目の当たりにして、セラが戸惑いの声を上げる。
――――アルビオンシューター。
この場に居合わせた者は誰一人として知らぬことだったが、潤一郎が取り出したその純白の拳銃はそういう物だった。
秘密結社ネオ・フロンティアの技術開発顧問、篠崎香菜が開発したそのアルビオンシューター……当然、単なる拳銃などではない。それが如何なる物なのかは、敢えて語るまでもないだろう。
何せ潤一郎は、そのアルビオンシューターの実力をすぐにでも皆に見せつけるつもりだったのだから。
「ふふん♪」
潤一郎は鼻を鳴らしながら、その大きな拳銃……アルビオンシューターをクルクルと回しながら顔の近くまで持ってくる。
すると、銃の後端にある幅広のローディングゲートを左手で開けた。
『READY』
そうしてローディングゲートを開ければ、アルビオンシューターからそんな電子音声が鳴り響く。
透き通る女性の声での合成音声だ。それが鳴り響くと、潤一郎は懐から……今度は分厚いカード状の物を引っ張り出す。
――――Bカートリッジ。
複数のバンディットから因子を採取し、それを合成し複製し……更に進化させたものを閉じ込めたカートリッジだ。彼が今から為そうとすることに必要不可欠な道具、それがこのBカートリッジだった。
「さあて、よく見ているといい。正義のヒーロー、その誕生の瞬間をね」
潤一郎はニコニコ笑顔でそう言って、左手に握り締めた白いBカートリッジ……『アルビオン・カートリッジ』を開いたローディングゲートから右手の銃に、アルビオンシューターに装填する。
『GET READY』
そのままの流れでローディングゲートをバチンと閉じれば、アルビオンシューターから再び電子音声が鳴り響いた。
銃からアップテンポの、小気味の良い待機音が響く中。潤一郎はそのアルビオンシューターをスッと構えると……こんな一言を笑顔で呟いて、トリガーを引く。
「――――――変身♪」
『SET‐UP ALBION‐SYSTEM』
にこやかな笑顔とともに、潤一郎がアルビオンシューターのトリガーを引いた瞬間。三度目の電子音声が鳴り響いた瞬間――――彼の身体は瞬時に純白の装甲に包まれて。そうすれば一秒後にはもう、篠崎潤一郎は今までと全く別の姿に変わり果てていた。
「っ、何なの……!?」
「おいおい、冗談だろ? コイツはまるで――――」
「――――ヴァルキュリア・システム!?」
戸惑うセラとウェズと、そして戒斗。
そんな彼らが見つめる先、眼を見開いて驚く彼らが見つめる先。そこに立っていたのは、現れていたのは――――純白の、パワードスーツだった。
「違うね、これはアルビオン・システム……正確に言えばプロトアルビオン。覚えておくといい、この名前こそ……君らのような悪者の企みを叩き潰す、ヒーローの名前なのだからね」
純白の装甲に身を包みながら、顔を覆い隠すヘルメットの下で……潤一郎はそう、不敵な笑顔で宣言してみせた。
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