第七章:インターミッション/01
第七章:インターミッション
――――翌日。
戒斗とセラ、そしてアンジェも含めた三人はP.C.C.S本部ビルの地下司令室に呼び出されていた。
当然のように司令官の石神や有紀、そして彼女の補佐役として南の姿もある。要はいつもの面子で、今日も今日とて顔を突き合わせてのミーティングというワケだ。
議題は当然のことながら、昨日の夜――――戒斗とセラが遭遇し、交戦した敵。空飛ぶコウモリ怪人ことバット・バンディットについてだった。
「――――分析の結果、あのバンディット……タイプ・バットは通常のバンディットよりも貧弱な存在だと結論づけられたよ。戒斗くんが発砲した五・五六ミリの小口径ライフル弾や四〇ミリのグレネード弾、九ミリパラベラム拳銃弾が一定の効果を見せていたことから、私と技術班はそう判断した」
そうして皆で顔を突き合わせる中、有紀がそんな風に敵の分析結果を皆に述べている。
昨日の交戦データを元に、有紀を始めとしたP.C.C.Sの技術開発部門が分析した内容だ。セラが終始圧倒していたことは元より、戒斗が撃った低威力な銃弾すら効いていたのは……やはり、あのバット・バンディットが素で貧弱な体質だから、ということらしい。
「これはあくまで予測に過ぎないが……三〇口径、七・六二ミリ以上の大口径ライフル弾を使う火器、NXハイパーチタニウム合金の弾芯を使う我々の対バンディット戦用・特殊徹甲弾を用いるのならば、或いは神姫に頼らずとも撃破できるかも知れない」
続く有紀の説明曰く、そういうことらしい。
つまりは、人間の力でも撃破できるレベルの相手だということだ。超常の存在である神姫の力を借りなくても、ヒトの力だけで完全撃破すら可能なほど貧弱なバンディット……それが、あのバット・バンディットのようだ。
それこそ、Vシステムを出動させるまでもない相手。下手をすれば量産型のコフィン・バンディットに毛が生えた程度の耐久力しかないようだ、あのすばしっこいコウモリ怪人は。
「あの神姫……風谷美雪、ジェイド・タイフーンの介入さえなければ、恐らくあの場で撃破できていた相手だろう。皮肉なものだね……」
有紀はニヒルな笑みを湛えながらそう言うと、コホンと咳払いをし。更にこう言葉を続けた。
「……ま、それはそれとしてだ。奴が虚弱体質のもやしっ子なのが分かったところで、残念ながら奴の捕捉は非常に難しいのが現状だ」
言うと、有紀は傍らに控えた南にクイッと顎で指示を出す。
そうすれば南は「了解ッス」と頷き返し、傍らに抱えていたタブレット端末を操作しつつ……有紀と交代する形で、戒斗たちに補足説明を始める。
「戒斗さんたちの交戦記録から判断した結果ッスが……ここ数週間の間、多発していた怪死事件。これらは全て例のバット・バンディットによる犯行だと断定できたッス」
「怪死事件……?」
首を傾げるアンジェに「そうッス、グロいッスよ」と頷き返してから、南はその怪死事件とやらについても簡潔に説明してくれた。
「簡単に言えば、全身の血を抜かれた状態、干からびた状態で死んでいる遺体が多数発見されているッス」
「それは……うん、結構アレだね……」
何とも言えない表情を浮かべるアンジェに「ホントにアレッスよね、気色悪いッスよね」と小さく肩を竦めた後、南は言葉を続ける。
「……で、最初にその遺体が発見されたのが今から約二週間前。それを皮切りに、ここ二週間で既に二〇人以上の遺体が上がってるんスよ。全部同じ殺され方の遺体が、ッス」
「待ってくれ、バンディットサーチャーに反応はなかったんだろ?」
「それどころか、アタシたちも気配は感じなかったわよ。それって……どういうこと?」
疑問符を浮かべる戒斗とセラ。そんな二人に南は「そう、そこなんスよ」と言ってから、更なる言葉を紡ぎ出していく。
「お二人の指摘通り、その当時にバンディットサーチャーは反応していないんス。神姫が感知できなかった理由はちょっと分かんないッスけれど……でもまあ、似たような感じのはずッス」
「だからこそ、捕捉が困難ってワケか……なるほど、腑に落ちたぜ」
「理解が早くてありがたいッス、戒斗さん。
――――話を戻すッスよ。その連続怪死事件なんスけど、どれもこれもが不可解にも程がある事件。だから警察では敵性不明生物……つまりバンディットの犯行と見て、あっちはあっちで独自に捜査を進めていたらしいッス」
「何とも健気な話だ」
「警察には警察のプライドってモンがあるみたいッスよ。何でもかんでも俺たち任せってのは、やっぱり気に食わないみたいッス」
「難儀なモンだな」
皮肉っぽい戒斗の台詞に「全くッスよ」と肩を竦めつつ、南は更に続けて説明してくれた。
「……えっと、この連続怪死事件なんスけど、ひとつだけ法則があるんスよ」
「法則……?」
「南、勿体ぶってないで早く説明しなさいよ」
首を傾げる戒斗とセラに「そう焦らないでくださいッス」と南は言い、
「死亡推定時刻は、全て日没後から夜明け前までの間。どうやら全ての被害者がその間に変死を遂げたみたいなんスよ」
「……つまり、奴は夜行性だってことか?」
戒斗が指摘すると、南はニヤリとして「その通りッス」と肯定する。
「お二人が目撃したバンディットの外見やその特性、そして連続怪死事件の状況を鑑みるに……恐らく相手は夜行性。しかも暗殺に特化したタイプであることが推測されるッス」
「どういうこと?」
イマイチ話の内容が掴めていなかったのか、怪訝な顔をして南に問うセラ。
「つまり、神出鬼没ということだ」
しかしその疑問に答えたのは南ではなく、石神だった。
今まで腕を組んだまま、黙って話を聞いていた彼はセラにそう答えた後。コホンと咳払いをしてから、続けてこんなことも皆に言う。
「……結論を言うと、現時点ではまだバット・バンディットに対する対処法は不明だ」
「一応、Vシステムの方は既に修復と改修作業は完了しているから、出動自体はいつでも出来るけれどね。でも肝心の相手が神出鬼没なんじゃあ、折角の強化型も文鎮代わりにしかならないんだが」
石神が言った後、有紀が補足めいたことを報告してくれたが。どちらにせよ……打開策は見えず、手詰まりに近い状況なのには変わりなかった。
「どうしたら良いんだろう……」
そんな現状確認めいた話が終われば、アンジェが戸惑いがちな呟きを漏らす。
すると、石神はううむ、と唸った後にこう言った。
「とにかく、三人は今まで以上に気を付けて対処に当たってくれ。相手は飛行型、ビートル・バンディットの時もそうだったが……こちらに空を飛ぶ手段がない以上、空を飛ばれてしまっては対処が難しい。万が一にでも再び交戦する事態になった場合は、とにかく飛ばれる前に決着を付けてくれ」
「……そう、ですね。分かりました、司令」
「その点に関しちゃ俺も同意だ。飛ばれちまったらどうしようもないからな」
「妙にすばしっこいってのもあるからね。ほんっと……弱っちい癖に面倒な相手だわ」
気を引き締めてくれと告げる石神に、アンジェと戒斗、それにセラは各々の調子でそれぞれ頷き返す。
「いっそ、僕らも飛べたら良いのにね」
そうした後でアンジェはそう、苦笑いを浮かべながら冗談っぽく、何気ない調子でポツリとそんなことを呟いていた。
それは、本当に他愛のない冗談だった。何の気なしの、単なる冗談。
だが――――――。
「…………神姫に飛行機能の付与、か」
アンジェの放ったそんな何気ない言葉を、顎に手を当てて唸る有紀が存外、真剣に受け止めていたことを――――言った本人であるアンジェは、まるで自覚していなかった。
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