第五章:独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き/01
第五章:独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き
二人で遊んでいたら、気付けば何だかんだと午後九時を過ぎてしまっていた。
「お腹も膨れたし、そろそろ帰ろっか」
「そうだな。時間も時間だし……良い頃合いかもな」
「えへへー、今日は楽しかったよ?」
「だったら何よりだ」
「また付き合ってね?」
「言ってくれれば、いつでも」
綺麗な半月の浮かぶ夜空を見上げながら、そろそろ帰ろうか、なんて話しながら戒斗とアンジェが都市部の大きな公園近くの大通りを歩いていると。すると二人はある時、行く手に……見慣れたブレザー制服を身に纏った女の子の姿を見つけていた。
その女の子、大通りの脇にある花壇にちょこんと腰を落としていて。そんな彼女の
「ねえカイト、あの
「……神代学園だよな、あの制服って」
「僕と同じだね。でも記憶にない
二人の言う通り、女の子が身に纏っている制服は、他でもない神代学園の……アンジェが通い、そして嘗ては戒斗も在学していた学園の女子制服だった。
見慣れた制服に黒のオーヴァー・ニーソックス、そして学園指定のローファー靴。加えて傍らに置いてある重そうなスクールバッグという出で立ちは、いつもアンジェが着ているものと完全に同じだ。白いブラウスの首にリボンを着けているのもアンジェと同様で、強いて違う点を挙げるのなら……リボンの色はアンジェと同じ青色ではなく、可愛らしい緑色という部分だけ。
そんな、見慣れた出で立ちの彼女……アンジェの言う通り、どう見ても彼女より年下だった。
恐らく一年生、十六歳だろうか。背丈は一五六センチとアンジェよりも低く、凄く細身な……どちらかといえばスレンダー寄りなスラッとした体型だ。ちなみに二人が知るよしもない情報だが、スリーサイズは上から七九・五三・八一だったりする。
そんな女の子、艶やかな黒髪は襟足が肩甲骨辺りまで伸びたセミロングの髪型で、瞳の色は綺麗な翠色。顔立ちもかなり整っていて、幼さはまだ残るものの……まるで良く出来たお人形さんのような、そんな見目麗しい容姿の持ち主だった。
だが、彼女はそんな可愛らしい顔を不安の色に染め上げてしまっている。明らかに何かあったような顔だ。この世の終わりのような暗い表情を浮かべる、そんな彼女の横顔から……戒斗もアンジェも、何故だか目が離せなかった。
「………アンジェ、俺が今何をしようとしているか、分かるか?」
戒斗は女の子の不安そうな横顔を遠巻きに見つめながら、隣のアンジェに小さく囁きかける。
「分かるよ、君の考えていることぐらい。……本当に、君は何処までも優しいんだから」
すると、囁かれたアンジェは全て承知だと言わんばかりに小さく頷き、そして戒斗の顔にそっと横目の視線を投げ掛けた。君の好きにしていいよと、暗にそう告げるかのように。
「悪いな、もうちょっと付き合ってくれ」
「ん、分かった」
そうして二人で頷き合うと、戒斗とアンジェはその女の子……不安そうな顔で座り込む、神代学園のブレザー制服を着た女の子の元に歩み寄り、そして声を掛けてみた。
「ねえ君、どうかしたの? 道にでも迷っちゃったのかな?」
「もし必要なら、警察なり救急車なり呼ぶが……どうかしたのか?」
「っ……! 私、私っ…………!!」
恐る恐るといった風に話しかけてみれば、戒斗とアンジェに話しかけられた瞬間、女の子は急に泣き出してしまう。
「ど、どうしたんだよ急に」
「カイト、ここは僕に任せて」
いきなり泣き出した女の子を前に、戒斗は戸惑いを隠せぬままに立ち尽くすが。しかしアンジェは小さく彼に囁きかけると、戸惑う戒斗の横をサッと通り過ぎ……そのまま女の子の前にしゃがみ込むと、アンジェは泣きじゃくる彼女をそっと抱き寄せてあげていた。
「えぐっ、えぐっ……!!」
「大丈夫、もう大丈夫だよ……」
今は敢えて理由も何も訊かないまま、ただ抱き締めるだけで……アンジェは暫くの間、泣きじゃくる女の子をただ黙って受け止めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます