第五章:独りぼっちの迷い猫、風に誘われ迷い歩き/02
女の子が泣き止むまで、十五分ぐらいは掛かっただろうか。
アンジェに抱き締められて、どうにかこうにか泣き止んだ後。女の子は自分の左右に座るアンジェたちを泣き腫らした目で見つめながら、しどろもどろになりながらも……ポツリポツリと事情を説明してくれた。
「えっと……この辺りには、その、引っ越してきたばかりだったんです。それで、ちょっと遠くに行ってみようと思って、こっちに来たんですけれど。家に帰ろうとしたら、携帯の充電が切れて。地図アプリも使えなくて、どうしたら良いのか分からなくて。とにかく帰らなくちゃって、何時間も歩いてたんですけれど、でも動けなくなっちゃって。そうしたら、私どうしたら良いのかも分からなくなって、頭が真っ白になって…………」
女の子が説明してくれた事情を分かりやすく纏めると、ざっくりこんな感じだ。
彼女はこの辺りに引っ越してきたばかりの、要は土地勘がない状態。それで……恐らくは家から結構離れたこの都市部までやって来たは良いのだが、さあ帰宅しようとした矢先にスマートフォンの充電が切れてしまったと。
そうすれば、恐らく今まで道案内役として頼りにしていたであろう便利な地図アプリも、当然ながら使うことは出来ず。GPSという道標を失った彼女は、見知らぬ土地でどうすれば良いのかも分からずに途方に暮れてしまい。そのまま何時間も独りぼっちで彷徨い歩いた挙げ句、遂には歩く体力もなくなり。どうしようもなくなって、こうして独り座り込んでいた、と…………。
――――簡単に纏めれば、こんな感じの事情だそうだ。
「……大変だったな」
事情を説明してくれた女の子の肩を、戒斗は同情の眼差しを向けながらポンッと叩く。
「そっか……ねえ、君の名前を聞かせてくれないかな?」
そんな戒斗の反対側、女の子を挟んだ逆サイドに座るアンジェがそう囁くと、まだ泣き腫らした目のままな女の子はこう名乗ってくれた。
「
「風谷美雪……うん、美雪ちゃんか。よろしくね、美雪ちゃん。僕はアンジェリーヌ・リュミエール、気軽にアンジェって呼んでくれていいよ。それで、こっちの男の子が――――」
「戦部戒斗だ。俺も戒斗で構わない。そっちの方が呼ばれ慣れてるしな」
名乗ってくれた女の子――――
すると、美雪はそれでまた安心したのか……また、翠色の瞳から大粒の涙を流し始めてしまった。
「…………戒斗さん、アンジェさん。私、私どうすれば良いのか分からなくて…………っ!!」
「よしよし、不安だったんだね……」
そうして再び泣き出してしまった美雪の肩をそっと抱き寄せながら、安心させるようにアンジェが柔らかな声でそっと囁く。
「もう大丈夫だよ。僕らがちゃあんと、美雪ちゃんをお家まで連れて行ってあげるから」
「かといって、家が何処にあるのかも分からないんじゃあ流石にな……。美雪、自分の住所は分かるのか?」
「あ、はい。それは分かります……」
頷く美雪に「なら問題なしだ」と戒斗は言って、
「差し支えなければ、教えてくれ。コイツに入れれば一発で君を家まで連れて行ける」
懐から取り出した自分のスマートフォン、既に地図アプリを起動してあるそれを、美雪にそっと差し出した。
「分かりました。ええっと…………」
戒斗のスマートフォンを受け取った美雪が、両手で握り締めたそれに自分の家の住所を入力する。
入力が終わると、彼女にスマートフォンを返され。そこに表示された住所をアンジェと二人で見てみると……意外や意外、戒斗たちの家から割と近い場所にあるようだった。
具体的に言うと、徒歩十分圏内の近い距離。殆どご近所さんと言っても差し支えないぐらいには近場にある家のようだった。
「マジかよ、ご近所さんか」
「……そうなんですか?」
「あはは、僕とカイトの家って隣同士だからさ。だから美雪ちゃんの家、僕ら二人ともかなり近いんだ」
「不思議な縁も、あるんですね」
美雪がまさかのご近所さんだったことに、戒斗とアンジェが笑い合い。それに美雪も、泣き腫らした目で微かに笑んでくれていた。
「んじゃあ、早速行こうか……と言いたいところだけれど。美雪ちゃん、多分お腹空いてるよね?」
「え、あ、はい。でも、どうして……?」
「顔を見れば分かるよ。お腹が減って動けなくなったって感じだと思うし」
「腹が減っては戦が出来ぬ、とも言うからな。適当に何か腹に入れてから行こうぜ。話はそれからでも遅くない」
空腹をアンジェに見抜かれた美雪がきょとんとしている中、戒斗は彼女にそう言って……また、自分のスマートフォンをスッと隣の彼女に差し出した。
「俺の携帯を使ってくれ、まず君の家族に連絡を入れなくっちゃあな。時間も時間だ、多分美雪のことを心配してるだろうし」
「ありがとうございます、戒斗さん……」
「良いってコトよ。困った時はお互い様、だろ?」
微笑むアンジェに見つめられながら、ニッと笑んだ戒斗が差しだしたスマートフォン。それを美雪は疲れ切った顔で、泣き腫らした顔で……小さな両の手のひらで、大切に包み込むようにして受け取ってくれていた。
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