第二章:もっと君を知れば/02
それから少し後、家を出た戒斗はガレージに停めてあるオレンジ色のクーペ……二〇〇三年式の日産・フェアレディZ、普段から乗り回しているZ33のボディに寄りかかりつつ、暖機運転が済むまでの暫しの間をぼうっと待っていた。
傍では、アンジェも同じようにしてオレンジ色のボディに寄りかかっている。
手ぶらな戒斗と、スクールバッグを左肩に担いだ制服姿のアンジェ。二人は特に言葉も交わさぬまま、暫しの間そうしてただ、黙ったまま隣り合ってぼうっとしていた。
でも、不思議と嫌な沈黙じゃない。
寧ろ……その逆だ。大した言葉を交わさなくても、こうして傍に居るだけで構わない。互いの気配を感じているだけで、それだけで十分すぎるぐらいに心が安らぐ。
「ねえカイト、夕方って何か予定あるかな?」
そんな心地良い沈黙の中、ふとした折にアンジェが何気ない調子で問うてくる。
戒斗はそれに「ん?」と横目の視線を投げ掛けながら反応し、
「んー……別に思い当たる節は無いな」
と、少し唸った後でそう答えた。
「だったらさ、久し振りに二人で遊びに行かない?」
「アンジェが行きたいってのなら、俺は構わないが。というか、別に久し振りってほどでもなくないか?」
「あれ、そうだっけ?」
「……ひょっとして、俺の勘違いか…………?」
「うーん、どっちだろう……?」
変なことで二人して首を傾げ、疑問符を浮かべ合い。そうすれば何だか、こんなことで悩んでいるのがおかしくなってきて。戒斗もアンジェも、どちらからでなく自然と笑い出してしまう。
「ぷっ……俺たち、何言ってるんだろうな」
「あはは、ホントにねー」
そんな風に二人で笑い合っている内に、気付けば暖気も終わっていて。水温・油温ともに適正値に達したことに気が付くと、戒斗は寄りかかっていたボディから離れ。そうすれば今まで背にしていた助手席側のドアをスッと開ける。
「ん、じゃあ行こうか」
そこからアンジェを乗せてやり、彼女が助手席にちょこんと座ったのを見て、外からドアをバタンと閉め。そうすれば戒斗も運転席の方に回り、自分もまた座り慣れたコクピット・シートに滑り込んでいく。
センターコンソール、今や殆ど無用の長物と化している純正カーナビに映るデジタルメーターにチラリと視線をやって、油温水温、油圧に電圧とその他諸々の数値をサッと確認。全て問題無いことを確認してから、戒斗はサッとシートベルトを着ける。
「そいじゃ、行くかアンジェ」
「うんっ♪」
笑顔のアンジェと頷き合い、サイドブレーキを下ろしてギアをドライヴ位置へ。ゆっくりと動き出した四輪で大地を踏み締めながら、戒斗はZをガレージから発進させる。いつものように、アンジェを学園へと送り届ける為に。
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