第一章:戸惑い、揺れ動く紅蓮の乙女/04

 店を飛び出した遥と、その後ろにしがみつくアンジェ。遥の駆る黒いニンジャ・ZX‐10Rのバイクが猛スピードで滑り込んだのは、ある大きなスタジアムのすぐ傍だった。

 スタジアムの出入り口が間近に拝める、広場のような場所だ。普段なら何か催し物がある度に観客で賑わうこの場所だが……今は凄惨な殺戮現場に変わり果てていた。

「アンジェさん……!」

「うん、分かってる……!!」

 それぞれヘルメットを脱ぎながら、遥と彼女の背中にしがみつく形でバイクに跨がっていたアンジェがそれぞれバイクから降りる。

 そんな二人が険しい顔で見つめる先には……やはり、暴れ回る異形の姿があった。

 ――――バンディット。

 神姫たる二人が戦わねばならない相手、異形の怪人。そんな怪人が……今回は二体、このスタジアムの傍で暴れ回っていた。

 片方はこの間、アンジェが覚醒した時の戦いで取り逃がしたバッタ型の怪人……グラスホッパー・バンディットだ。あの草色の体色、そして文字通りバッタのような顔面を忘れるものか。

 そして、もう一体は……何というか、凄く形容しづらい見た目をしていた。

 どう表現すべきか迷うところだが……喩えるなら、その姿は亀そのものだ。

 亀というと、あの亀だ。背中に大きな甲羅を背負っている、あの動物。のそのそと動く可愛らしいアイツだ。

 目の前のバンディット、グラスホッパーの片割れのソイツは……その亀と寸分違わぬ見た目をしていたのだ。

 ――――トータス・バンディット。

 その名の通り、亀の特性を宿した怪人だ。

 背中に背負う巨大な甲羅、泥に近いような色合いをした体色と……人間サイズで直立二足歩行している亀、と喩えるのが一番適切なような、二人の目の前に居るトータス・バンディットはそんな奇妙な見た目をしていた。

 だが――――呑気なのは、見た目だけの話だ。

 そのトータスもまた、バンディットであることに変わりはない。実際グラスホッパーとともにこのスタジアムの傍で暴れ回り……既に何人もの無辜むこの人々を手に掛けていた。あの二体に殺された者たちの遺骸が、異形の足元……血溜まりの中に沈んでいるのが、遥たちの位置からでもハッキリと見える。

「……行きましょう、アンジェさん」

「分かったよ、遥さん……!!」

 間に合わなかった、救えなかった。

 だとしても、まだやるべきことは残っている。そこに生きているヒトたちがまだ居るのなら、そこで異形の怪人が暴れているのなら……また悲しみを増やそうとしているのなら。それだけで二人が戦う理由になる。それだけで――――遥とアンジェ、神姫二人が怒りを露わに戦う理由になるのだ。

「ハァァッ……!!」

「っ……!!」

 バイクを降りた遥とアンジェは、横並びになってそれぞれ右手と左手を胸の前に構える。

 すると――――彼女たちの構えた手の甲が一瞬輝き、そこにガントレット状の装具が出現した。

 セイレーン・ブレス、そしてミラージュ・ブレス。

 蒼と白、そして赤と白のブレス。それこそが二人が神姫であることの何よりもの証だ。

「ハァァァッ……!!」

 遥は身体の内側で気を練るように深く息をつきながら、広げた両腕を時計回りに回し、そして右手をバッと斜めに構える。

「っ……!!」

 アンジェは一度ブレスの出現した左手を腰の位置まで引き、代わりに右手をバッと前に突き出して。そのまま握り拳を作るように手の甲をくるりと内側に回転させると、左腕と一緒に大きく振り……右手と左手、顔の右横で握り拳を作って構える。

「チェンジ・セイレーン!!」

「チェンジ・ミラージュっ!!」

 そうして二人が同時に構えを取ると――――手の甲のブレス、埋め込まれたそれぞれの丸いエナジーコアが唸り声とともに強烈な閃光を発し。それが二人の身体を包み込んだかと思えば……次の瞬間にはもう、二人の姿は神姫のそれへと変わり果てていた。

 ――――神姫ウィスタリア・セイレーン、そして神姫ヴァーミリオン・ミラージュ。

「呼吸は私の方から合わせます。アンジェさんは、アンジェさんの思うとおりに戦ってください」

「うんっ……!!」

 二人とも、基本形態のセイレーンフォームとミラージュフォームだ。

 遥の方は虚空から聖剣ウィスタリア・エッジを呼び出し、そしてアンジェは腕のアームブレード、脚のストライクエッジという四つの固定装備された刃を煌めかせ。二人で一度見合って頷き合うと――――アンジェが腰のスラスターを吹かしながらバンッと地を蹴り踏み込んで、暴虐の限りを尽くす二体の怪人の懐へと飛び込んでいく…………!!

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