第十章:Brave Love, MIRAGE
第十章:Brave Love, MIRAGE
眩い閃光は、ほんの一瞬。アンジェの左手から放たれたその強烈な輝きに、この場に居た全員……二人の神姫や、そして三体のバンディットでさえもが眼を眩まされ、立ち止まっていた。
「今のは、一体……?」
そんな閃光が収まった頃、強烈すぎる光に驚いて思わず尻餅を突いてしまっていた戒斗が、咄嗟に両眼を覆っていた腕を退けると……すると、目の前にはアンジェの背中があった。
でも、その背中は今まで見慣れたアンジェの背中とは、少し違っていた。
彼が目にした彼女の背中は、今までに見たことがないほどに気高く、慈愛に満ち溢れた――――深紅の神姫としての姿に変わり果てていたのだ。
「アンジェ……なのか?」
戸惑い、呆然と彼女の背中を見上げる戒斗が呟く。
雨に濡れて煌めく、赤と白の神姫装甲。華奢な腰部にはスラスター状の大きな装具があり、両腕甲と両脚の
そして、そんな彼女の左手の甲では――――前に遥が見せてくれたのと同じものが。彼女が神姫に覚醒した何よりもの証、赤と白の『ミラージュ・ブレス』が静かに輝きを放っていた。
「……なんか、そうみたいだね」
背後で尻餅を突いたまま、呆然と自分の背中を見上げる戒斗の方を小さく振り返りながら、アンジェはえへへ……と困り顔で彼に呟く。
「ヴァーミリオン・ミラージュ。……どうやら、それがこの姿になった僕の名前みたいだ」
言って、アンジェは胸の前に掲げた左手を軽く握り締める。自分の得た新たな力を確かめるように、この力で……彼を守ると、そう固く決意するかのように。
――――神姫ヴァーミリオン・ミラージュ。
それが、覚醒した彼女の名。それが、この場に現れた第三の神姫……赤と白の神姫装甲に身を包んだ、
「アンジェさん……!?」
「嘘、アンジェまで神姫に……!?」
とすれば、神姫への覚醒を遂げた彼女の姿を見て、遥は呆然とし。そしてセラもまた、信じられないような顔でうわ言のようにひとりごちる。
「大丈夫だよ、カイト。どんな姿になったって、僕のやるべきことは変わらない。今も昔も、僕の守るべきものはただひとつ――――カイト、君だけだから」
そんな風に神姫二人が驚く傍ら、振り返るアンジェは背後の彼に微笑みかけていて。すると、そう言っている間に……たじろいでいたマンティスが、再び腕の鎌を振り上げてアンジェに飛びかかってくる。
「ふぅ……っ」
すると、アンジェはそれを回し蹴り――――脚部の神姫装甲、
「ガ、ギギ――――!?」
アンジェの回し蹴りを喰らったマンティスは、腹に深い刀傷を負いつつ……派手に吹き飛び。近くにあった住宅のブロック塀に激突すると、派手に崩れるそれと一緒に地面に倒れ伏す。
そんな風にマンティスが倒れる中、回し蹴りの勢いで後ろに振り向いていたアンジェは、尻餅を突いたまま呆然とする戒斗にそっと歩み寄り。すると彼の傍にしゃがみ込んで、そのまま……震える彼の身体を、そっと抱き締めた。
「アンジェ……」
彼女に抱き締められた感覚は、身に纏う赤と白の神姫装甲のせいか、少しばかり硬かったが……それでも、この暖かさは。優しく抱き締めてくれる両腕から伝わってくる暖かさは、紛れもなくアンジェの暖かさだった。戒斗のよく知っている、アンジェリーヌ・リュミエールの……優しい彼女の、温もりだった。
「僕は、この力で君を守るよ。だから安心して、カイト。もう大丈夫だから。君は必ず、僕が護り抜くから」
「アンジェ……君は」
「なんで僕が神姫になれたのか、僕自身にもよく分からない。けれど……心配しないで。僕が戦う理由なんて、ずっと昔から変わらない。僕は……大好きな君を、僕を守ってくれたあの日の君のように守ってみせる。ただ、それだけだから」
囁くようにアンジェは言って、そして戸惑う戒斗の頬にそっと指で触れると……そのまま、彼と口付けを交わす。
――――キスを交わしたのは、ほんの一瞬。
そういえば、これがファーストキスだった気がする。こんな状況だから、情緒もへったくれもないが……それでも、自分らしいファーストキスの捧げ方だったとアンジェは思う。必ず守ると、そう誓っての口付けだから。
「大丈夫、すぐ戻ってくるから。その後でいっぱい抱き締めてあげる。だから……カイト、少しだけ待っててね」
ほんの僅かなキスを交わした後、アンジェはそう言うと戒斗から手を離し、立ち上がり。そして最後に微笑みかけて……クルリと踵を返し、彼に背を向ける。まるで、彼の盾となるかのように。此処から先は一歩も通さぬと、そう暗に強く主張するかのように。
「改めて名乗らせてもらうよ。僕は神姫ヴァーミリオン・ミラージュ。この力のこと、僕自身もまだよく分かっていないんだ。だからさ――――少しだけ、付き合ってもらうよ!!」
アンジェは静かに構えを取り、戸惑う三体のバンディットと相対する。
――――神姫ヴァーミリオン・ミラージュ。
三人目の神姫が覚醒し、産声を上げた瞬間。焔と力に愛されし、慈悲と愛に満ち溢れた最速の神姫が目覚めた瞬間――――この場に漂っていた絶望感は綺麗さっぱり消え失せ。ただ、燃え滾る焔のような熱気だけが漂っていた。
(第十章『Brave Love, MIRAGE』了)
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