第十一章:BELIEVE YOURSELF

 第十一章:BELIEVE YOURSELF



「シューッ……!!」

「――――!!」

 神姫ヴァーミリオン・ミラージュに変身したアンジェに、瓦礫の中から立ち上がったマンティスと、そして羽を広げたビートルが同時に襲い掛かってくる。

「やぁっ!!」

 だが、アンジェはすねのストライクエッジを振るう蹴りで二体を文字通りに一蹴し。すると次に飛びかかってきたグラスホッパーと……今度は徒手空拳同士での格闘戦を始めた。

「シュルルルル!!」

「はっ! やっ! てりゃぁぁっ!!」

 ――――猛攻。

 そう表現するしかないほどに、アンジェとグラスホッパーの拳の応酬は目にも留まらぬ早業で、そして一撃一撃が重かった。

 アンジェの戦い方は、やはりどこか拙かったものの……それでもグラスホッパーの一撃一撃を丁寧に、素早く捌いていくその動きは、天性のセンスを感じさせる戦い方だった。

 グラスホッパーが横薙ぎの拳を繰り出せば、アンジェはそれを軽く受け流し。逆にローキック気味に脛のストライクエッジを振るってやると、グラスホッパーはこれを飛び退くことで避けてみせる。

 すると、グラスホッパーが今度は蹴りを仕掛けてくるから、アンジェはそれを身を捩り、最小限の動きで回避。そのまま懐に飛び込み、腕甲に生えた刃『アームブレード』で草色の胸を浅く斬り裂いてやれば……押されていると判断したグラスホッパーは自慢の脚力を駆使して大きく飛び退き、今度はマンティスやビートルと協力し、三匹でアンジェを取り囲んだ。

 だが――――その程度、今のアンジェには脅威でもなんでもない。

「無駄だよ……僕のスピードには追いつけない!」

 囲まれたアンジェは、腰部に備えられた大きなスラスターを吹かし、加速を開始。両腰の装具から青い噴煙を放ちながらバッと地を蹴ったかと思えば、すぐさま加速を始めた彼女の動きは……二秒と経たぬ内に、肉眼では追い切れないほどになってしまう。

 ――――超加速。

 そう表現せざるを得ないだろう、これほどまでの急加速は。

 これこそが、神姫ヴァーミリオン・ミラージュが有する最大の武器。焔と力と、そしてスピードに愛された彼女だからこそ可能な……人智を越えた超加速。それこそが、彼女に与えられた何よりもの武器だった。

「はぁぁぁぁっ!!」

 比喩抜きで目にも留まらぬ速さで動き回る彼女は、スピードの世界に身を任せつつ……腕のアームブレード、すねのストライクエッジを駆使して三体のバンディットを次々と斬り裂き、着実にダメージを与えていく。

「凄い……なんて速さなの」

「眼ではとても追いきれない……これが、アンジェさんの力」

 そんなアンジェの戦いぶりを見て、セラと遥は自分たちが戦うことも忘れて驚嘆していた。

 それほどまでに、アンジェの速さは常軌を逸していたのだ。生身の人間じゃあない、仮にも神姫である二人にすら追い切れないほどの、知覚できないほどの速さ……それが常軌を逸していなくて、一体なんだというのか。

「これで、チェック・メイトだ……!!」

 セラと遥、二人の神姫が呆然として見守る中、何十何百と斬撃を繰り返し、三体のバンディットに重いダメージを与えると……アンジェは靴底と地面の間に火花を散らしながら、派手に地面を滑って一度止まり。そうすれば今一度バッと構えを取って、両手足のブレードに深紅の焔を纏わせる。

 腕のアームブレードと脚のストライクエッジ、四本の刃に纏わり付く焔の色は……灼熱の赤色。遥の蒼い焔とはまた違う、情熱と深い愛の色。そんな焔を両手足の刃に纏わせながら……アンジェは静かに構えを取った。

「ギギ、ギギギ――――!!」

「――――!!」

 そんな、刃に焔を纏わせた彼女を見て……これはマズいと判断したのか、やられる前にやると言わんばかりにマンティスとビートル、二体のバンディットが決死の思いで一斉にアンジェへと飛びかかっていく。

 だが、しかし――――その程度で、彼女の速さに追いつけるはずもない。

「君たちの罪を今、その身を以てあがなわせる――――!!」

 飛びかかってくる二体を前にしても、アンジェは狼狽えることはなく。敢えて低くした声で、死刑宣告のように告げると――――両腰のスラスターを吹かして再加速。飛びかかってくる二体の懐に一瞬で飛び込んだアンジェは、アームブレードでビートルの腹を深く斬り裂き。そしてほぼ同時に、マンティスの胴体を脚のストライクエッジで回し蹴り気味に両断する。全て、真っ赤な焔を纏わせた刃で。

 ――――『ミラージュ・ジャッジメント』。

 必殺の斬撃は一瞬の内に決まり、着地したアンジェが激しく火花を散らしながら滑走し、そして静止した頃。彼女の背後では、大爆死を遂げた二体のバンディットがド派手な爆炎を上げていた。彼女がブレードに纏わせていたのと同じ、真っ赤な爆炎を…………。





(第十一章『BELIEVE YOURSELF』了)

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