第七章:亡者は闇の中で密やかに蠢いて/02

「――――ッ!?」

 同じ頃、いつものように純喫茶『ノワール・エンフォーサー』を手伝っていた遥は、客たちに笑顔を振りまきつつ接客をしている最中……急に、耳鳴りにも似た甲高い感触を頭の中に覚えていた。

 この感覚は、警鐘だ。これを感じた時は、即ちバンディットが現れた時。自らの討ち倒すべき異形が現れ、そして無辜むこの人々を手に掛けようとしているという……それを告げる、本能の警鐘だった。

「すみません、ちょっと出掛けてきます……!!」

 その感覚を、バンディットの気配を感じるや否や、遥は店のオーナーたる戒斗の両親にそう告げて。羽織っていたエプロンを脱ぎ、それをカウンターの隅に置くと……そのままドアを潜り、店を飛び出していく。

 カランコロン、と来客を告げるはずのベルの音色に見送られながら、遥は店の外に飛び出して。すると店のすぐ傍に停めてあった自分のバイク、二〇一九年式の黒いカワサキ・ニンジャZX‐10Rに飛び乗った。

 引っ掛けておいた黒いフルフェイス・ヘルメットを被り、キーを差し込んでからイグニッション・スタート。ギュルッと鋭く回るセルモーターに呼応して、排気量一リッターの直列四気筒エンジンが甘美な音色とともに目を覚ます。

 何度かスロットルを捻って空吹かしをしてやると……急げよと、まるで己があるじたる遥の使命を知っていて、彼女を急かすかのような調子でZX‐10Rが甲高い雄叫びを上げる。

 遥は被ったヘルメットのバイザーを下ろすと、バイクを立てていたスタンドを蹴っ飛ばし。そうして暖機運転の時間も待たぬまま、フルスロットルの全開加速で店を飛び出していった。

(こんな日に……!!)

 ――――そう、よりにもよってこんな日にだ。

 遥を普段より焦らせるのは、警鐘を感じたのがよりにもよって今日だったから。戒斗とアンジェが二人で出掛けている、こんな日だからこそ……普段より余計に、間宮遥の焦燥感を掻き立てていた。

 もしかしたら、二人が襲われているかも知れない。

 そう思えば、スロットルを緩める理由など遥の中から消え失せる。

 バイクの黒いカウルと、そして身体を雨粒が激しく叩く中。遥は行く手に走る他車の群れを右へ左へ、まるでスラロームするように間を縫って追い越し、そのまま全速力で駆けていく。

(間に合ってください……!!)

 間宮遥は、全速力で急いだ。ただ純粋に……二人の無事を祈って。

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