第三章:Long Long Ago, Dear my Memories/03
そうして店にやって来た制服姿のアンジェとセラが有紀の隣、カウンター席に腰掛け。セラは淹れたての珈琲を飲みながら……戒斗と遥も交えつつ、皆で和やかに談笑を交わしていた。
幸いにして、時間帯が中途半端だからか店に他の客は居らず、割と暇だった。
だから……三十分ぐらいはこうして、皆で和やかに話していただろうか。
話の内容は様々だ。主に有紀がアンジェに聞く形で、セラが学園でどういう風に過ごしているかだとか。他にはアンジェの口から語られる戒斗との思い出話だったり、彼が昔からサボり魔だったという話だったり。逆に戒斗がアンジェの思い出話を話しつつ、彼女が自分とは異なり、昔から頭脳明晰で文武両道、人当たりも良い完全無欠のスーパー優等生だった……という話も、主にセラに対して話してやっていた。
「ふふっ……」
そんな会話に、遥はあまり積極的に入ろうとはしなかったものの。しかし柔らかな笑顔を浮かべながら、至極楽しそうに皆の話を聞いていた。
聞いていたのだが――――ある瞬間、何の前触れもなく。遥は突然、頭の中に奇妙な感覚を覚えていた。
「っ――――!?」
キィン、と甲高い、耳鳴りのような感触――――。
それが頭の中に強く響いた瞬間、遥はそれまで浮かべていた柔らかい笑顔を崩し。途端に神妙そのものな風に表情を変えてしまう。
「……すみません、急用を思い出しました。後のことは……お願いします!!」
「あっ、遥!?」
「遥さん、急にどうしたの!?」
慣れ親しんだその感覚を覚えれば、遥の行動は早かった。
申し訳ないと思いながらも皆の楽しそうな会話を半ばで断ち切り、ボソリと呟くようにそう告げると。遥は身に着けていたエプロンを外し、そのまま走って店の外へと飛び出していってしまう。
驚いた戒斗とアンジェがどうしたんだと呼び止めようとしたが、しかし走り出した彼女の背中が止まることはなく。バッと強く店のドアを開けると、丁度入ってこようとしていたビジネススーツの男性客と入れ違いになる形で店の外に出て行った。
カランコロン、と来客ベルが激しく鳴る中、驚いた顔の男性客が店に入ってくる。
その向こう側には、店の前に停めてあった愛機カワサキ・ニンジャZX‐10Rの黒いバイクに飛び乗り、フルフェイス・ヘルメットを被った遥の姿が、微かにだが戒斗たちの位置から見えていた。
バッとキーを差し込んだ遥はそのままエンジンを始動させ、調子を確かめるように二、三度ほど軽く空吹かしをした後……スタンドを蹴っ飛ばし、暖機運転も待たずにそのままフルスロットルで飛び出していってしまう。
「一体何なのよ、急に」
「ああ、またかい。最近は特に多いね」
「遥さん……どうしちゃったのかな」
ZX‐10Rの甲高いサウンドが加速度的に遠ざかっていく中、遥の突然の行動にセラは戸惑い気味でひとりごちていて。その傍らでは有紀がふむ、と唸り、そしてアンジェは心配そうに店のドアの方へと視線を送っていた。
「…………遥」
きょとんとした皆がそうして各々の反応で訝しむ中、ふと……戒斗は思っていた。
時折……間宮遥は、今みたいに凄く険しい顔をする。まるで、SOSを叫ぶ誰かの呼び声が聞こえたかのように――――。
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