幻想神姫ヴァルキュリア・ミラージュ
黒陽 光
Chapter-01『覚醒する蒼の神姫、交錯する運命』
プロローグ:闇の中の神姫
プロローグ:闇の中の神姫
――――夜更け頃、とある倉庫地帯。
草木も眠る丑三つ時もとうに通り過ぎた深夜の頃合い、普段は
だが――――そのふたつの影は四肢を持つヒトの形は有していれど、月明かりに照らし出されたその姿は、どこからどう見てもヒトには似ても似つかぬ……文字通りの、異形そのものだった。
ひとつは、背中から細長い八本の突起物……そう、まるで蜘蛛の脚のようなものを生やしている。土色の体色は明らかに人間のそれではなく、複眼や大きな顎を有した顔面は……背中の突起物と同様、ヒトというよりもまるで蜘蛛のそれだった。
そしてもうひとつの顔付きも、当然ながら人間とは似ても似つかない。やはり土色に近いような縞模様の体色も相まって……その見た目は、どちらかといえば大蛇のようだった。
――――そのふたつの影、いや二体の異形は、バンディットという名の正体不明の怪物だった。
いや、一応は人型であるから……怪人と言った方が適切か。
どちらにせよ、真夜中の静かな倉庫地帯で蠢くそのふたつの影は、明らかに人間ではなかった。
蜘蛛型の前者がスパイダー・バンディット、大蛇型の後者がコブラ・バンディットという名の怪物、いいや怪人だった。
フシュルル、と不気味な唸り声を上げる二体の足元には……嘗てはヒトだったモノが転がっている。
既にこの二体によって食い荒らされているから、それが何処の誰だかは分からないが……恐らくこの倉庫地帯で働いていた作業員か何かだろう。彼らの身に何があったのかは……喋れなくなった今となっては訊けないし、敢えて訊くまでもない。
「…………」
そんな二体の方に、遠くからゆっくりと誰かの足音が近づいてくる。
コツコツとささやかな足音を立てながら、狭い歩幅で悠々と歩いてくるのは……長く青い髪を夜風に靡かせる、スラリとした長身の少女だった。
いや、少女と呼ぶには雰囲気が少しばかり大人びすぎているか。どちらかといえば、乙女と呼ぶべきなのかも知れない。
どちらにしても、その青い髪の乙女はゆっくりと二体の怪人、バンディットの元へと歩いてきていた。そこに蠢いているふたつの影が人ならざる異形であると知りながら、しかし乙女はその歩みを止めようとはしない。
――――低く唸る右手の甲から、眩いばかりの光を放ちながら。
「――――!」
そんな彼女に気が付けば、二体の内の一体……名前通りに大蛇のような見た目をした、コブラ・バンディットの方が彼女に襲い掛かろうと飛びかかっていった。
だが、しかし――――――。
「チェンジ・セイレーン」
悠々とした足取りで歩み寄っていた乙女が、その一言を呟くと。すると彼女の身体が一瞬、物凄い閃光に包まれた。
…………そうして閃光が瞬いたのは、一瞬。
とすれば……今まさに彼女を喰らわんと、彼女を毒牙に掛けんとしていたコブラは……途端に身体を真っ二つに斬り裂かれ、派手に爆散してしまう。
――――両断され、爆死を遂げたコブラの青白い爆炎が辺りを包み込む。
爆発の後、青白い爆炎の中から現れたのは――――先程の青い髪の乙女だった。
だが、その姿はさっきまでとはまるで違う。青と白の装甲に身を包み、青く長い髪を靡かせて。右手に長剣を携えたその姿は……そう、
バンディットと対を為す、人類の守護神たる戦乙女。青い髪の彼女は、まさにその神姫の力を宿した……選ばれし乙女だったのだ。
――――ウィスタリア・セイレーン。
それが、神姫としての彼女の名だ。誰に与えられたワケでもない、神姫となった彼女自身の名。それがウィスタリア・セイレーンという……この青く気高い神姫の名だった。
「――――!?」
一刀の内に叩き伏せたコブラ・バンディットと、その爆炎の中から悠々と歩み出てきた彼女、セイレーンの姿を見て……彼女を神姫と認識したもう一体の方。彼女を明確な脅威と認識したスパイダー・バンディットの方は、爆炎の中から姿を現した彼女の姿を見るなり一目散に逃げていった。文字通り、蜘蛛の子を散らすように。
「……………」
そうして夜闇の中に紛れるように逃げていくスパイダーの姿を、青い髪の彼女は……ウィスタリア・セイレーンは、冷たく冷え切ったコバルトブルーの瞳で見据えていた。憂いを秘めた瞳の色で、ずっとずっと遠くの彼方を――――――。
(プロローグ『闇の中の神姫』了)
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