ギロチン
「……」
「……」
あれほど騒然としていた群集が、いよいよとなった瞬間、まるでスイッチが切り替わったかのように静まり返った。
固唾を呑んで、次の光景を待つ。
ギロチンの刃が落ち、<歴史上最も忌むべき悪女>の首を落とすその光景を。
だが―――――
「うおっ!?」
まるで疾風のように影が奔り、自身の腕にギロチンを吊るスロープを絡め取った者がいた。
同時に、ギロチン台の、刃を導くためのガイドレールに剣が突き立てられる。これでは、たとえロープを放しても刃が落ちないかもしれない。
「な、なんだ!?」
「え…っ!?」
咄嗟の事に何が起こったのかが理解できなかった群集が唖然とする中で、処刑執行人が何人もの人間に組み伏せられ、ミカを捕らえていた拘束具が外される。
「こちらへ……!」
二人の人間が彼女を支えて体を起こし、階段の方へと促す。
「お前達は……?」
『こちらへ』と言った時のイントネーションが明らかに帝国のそれとは違っていた。
『外国人……?』
マスクで顔を隠してはいるが、どことなく帝国の人間とは印象が異なる。
だが、腕に絡めたロープを解き自分を見た男の姿を視界に捉えたミカは思わず声を上げた。
「お前……どうしてここにいる……っ!?」
「……」
しかし男はミカの問い掛けには応えず、意表を突かれて完全に後手に回った兵士が慌てて突き出した槍を剣で払いつつ、ミカをつれた二人を先導し、彼女を護送してきた馬車へと走った。
警備の兵士達も対応しようとはするものの、まったく連携が取れていない。
なにしろ警備していた兵士の何人かが味方のはずの他の兵士達に槍を突き立てたりもしていたのだから。
『クーデター……!?』
ミカの頭にその考えがよぎる。
この騒ぎの首謀者は自分を確保して担ぎ上げ、クーデターを行おうとしているのではないか?と思ったのである。
けれど、何の説明もないままに彼女は自分をここまで護送してきた馬車に再び押し込められた。しかも急発進したことで、壁に体が叩きつけられる。
「ぐっ……!」
自分が乗り込んだと同時に馬車が走り出した事実に、
『御者もグルか……!?』
と察せられた。
警備の兵士にも仲間がいたらしいことから、相当、入念に計画されたことだというのが窺える。
だがこんなことをして捕らえられれば確実に死罪だ。つまりこれに参加している者は、全員、その覚悟を持っているということだろう。
しかし、なぜこんなことを……
『これでは、何もかも台無しではないか……!』
自分の決意も、希望も、すべてが踏みにじられた現実に、ミカはギリギリと歯を鳴らす。
すると、猛スピードで走っているにも拘らず扉が開けられ、人影が見えたのだった。
「お前……!」
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