パヴァーヌ
ミカの護送が始まったちょうどその頃、ギロチン台が設置された王宮前広場では、楽団の演奏に合わせて民衆が踊っていた。
<歴史上最も忌むべき悪女>が遂に処刑されることを祝っての、<
それに参加している誰もが晴れやかに笑顔なのが、むしろ異様だっただろう。何しろその中心には、無数の人間の血を吸って何とも言えない色に染まったギロチン台が鎮座しているのだから。
一方で、ミカを乗せた馬車が通っている辺りでは狂気じみた熱気が満ちている。
だが、実は、この時、遠く離れたある場所では、こことはまったく別の異変が起こっていたのだが、誰もそれに気付かない。
現代地球では情報は秒速で地球の裏側にさえ届くこともあるものの、ここでは異変があった地から王都までさえ、伝令が早馬を駆っても一時間以上掛かる。
ましてやその伝令が押さえられてしまっては、情報など届きようもない。
もちろんミカでさえそれを知る術がなかった。
だから淡々と広場への道程をこなすだけだ。途中、何度も興奮した民衆に囲まれて足止めを受けながらも。
「邪魔をするな! 邪魔をすればお前らもギロチンに掛けるぞ!!」
何度も兵士らが怒鳴りつけ槍を突き付けて押し退ける。
「やれやれ……私としてはさっさと終わらせて欲しいのだがな……」
外の騒ぎの気配を感じ、思わずそんな風に呟きながら苦笑いを浮かべてしまう。
『さっさと終わらせて欲しい』
それがミカの本音だった。こうして平然と振舞うのももう限界なのだ。後もう少しですべて終わりにできると思えばこそギリギリのところで持ち堪えているのだから、早く終わってくれなければ困る。
耐える。
耐える。
ただひたすら耐える。
終わりの瞬間を待ちわびながら。
そうして、本来ならば一時間ほどで到着できるところを二時間以上掛けてようやく王宮が見えるところまで馬車はやってきた。
すると、それを察した者達から順に<
その気配は波紋のように広がり、やがて楽団も演奏を止めた。
さあ、いよいよだ。いよいよ誰もが待ち望んだ時が訪れる。
にこやかに<
「死ね!」
「死ね!」
「殺せ!!」
「殺せ!!」
ますます押し寄せようとする群衆と、馬車に近付かせまいとする兵士らの間でも緊張が高まる。早くしなければ本当に衝突が起こりそうだ。
しかしそんな状態の中、興奮した群集らとは違う動きを見せるいくつもの集団があったのだが、警備をしていた者達もそれどころではなく、誰も気付く者はいなかったのだった。
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