最後の晩餐
ミカがギロチンに掛けられる場所は、結局、王都の王城の前の広場に決まった。自身の領地の民衆にいい顔をしたかった貴族達があれこれと画策したものの、最終的にはあるべき形に落ち着いたということか。
それを三日後に控えたミカの下に、<食事>が差し入れられることになった。
せめてもの情けということらしい。明日にここを出て王都に向かい、そして刑が執行される。
その前に、監獄から一番近い街で近頃評判になっているというレストランから料理人が呼ばれ、ここの厨房を使って料理するのだという。
元々はルパードソン家の城だったこともあり、厨房も立派なものなので、申し分なかった。
すると、二人の料理人と給仕の女性の三人が監獄に現れる。
そして調理中、給仕の女性が<最後の晩餐>の準備のためにミカの独房を訪れた。
一人用の小さなテーブルを手に入ってきたその女性を一目見るなり、
「お前か……何の用だ……?」
ミカが呟くように問い掛ける。
「ご挨拶だね。せっかく<友達>が訪ねてきたってのに」
女性はテーブルを置き、それにクロスを掛けつつ囁くように言う。
髪型もメイクも変わっているものの、ミカには分かった。分かってしまった。この世界において唯一の<友人>とも言える女性。
裏社会で暗躍し、後の世で、<無貌の毒蛇>とも呼ばれることになる、<名前の無い女>だった。
女は言う。
「私としては、あんたの才がこのまま失われるのが惜しくてね。ここから連れ出しに来たんだよ」
「……要らん…余計なお世話だ……」
「……あんたにとってはそうかもしれないけど、私としてはあんたを失うのは大きな損失なんだ。二人で一緒にこの世界を楽しもうよ」
「ここで私が声を上げればお前もお終いなのにか…?」
「あんたはそんなことしないよ。だからきたんだ」
「……」
「どうしても駄目かい……?」
「……私はもうやることはやった…今の私は抜け殻だ。これ以上は何かを成す気力はない……」
「嘘だね。あんたは叩けばいくらでも響く太鼓だ。汲めばいくらでも湧く泉だ。こんなところで終わる器じゃない」
「買いかぶりすぎだな。何と言われようと私はそれほどの人間じゃない……
だが、最後にこうして話せたのは良かった。なんだか肩の荷が下りた気がするよ……」
「……馬鹿だね…あんた……」
いくら声を潜めて話そうとも、独房のすぐ外で警備していた看守には二人の会話は聞こえていた。
「……」
けれど、看守はどちらも人を呼びに行くようなこともしなかった。もし、ミカがこれで監獄を抜け出そうとするのなら止める気もなかったのだ。
ミカを助けるようなことまではできない。できないが、世界が彼女を生かそうとしてくれるのならば……
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