メンテナンス

『自分に仕えてくれて当然』


実際は、ミカはそんなことは思っていなかったが、確かに労いの言葉の一つも掛けようとはしなかった。そうなると人間はどうしてもネガティブな方向に受け取ってしまいがちになるのだろう。


けれど、自分に対する印象が悪くなるのを承知した上で、ミカは敢えて労ったりしない。感謝の言葉も、笑顔も、何一つ示そうとしない。一体、彼女の精神構造はどうなっているのだろうか?


それとも、看守長が感じたとおり、彼女は本当にこの世に顕現した<神>だとでも言うのか?


ともあれ、ミカはただ淡々と自身の<務め>を果たすことを貫いているだけだった。


二日目までは希望者が殺到したこともあって朝から夜まで休みなく男達の相手をすることになったために、最後にはほとんど意識を失うような状態だったりもしたものの、さすがに『毎日かかさず女を抱く』ほど精力に溢れている男ばかりというわけでもなく、三日目ともなれば一度に相手をする数も減り、自分で歩いて風呂にも行けた。


「……」


冷たい眼で周囲を見渡し、元メイドの囚人達が自ら動いて洗いにこないことを確認すると、彼女は自分でまず股間を洗い出した。


男達の吐き出した精がとめどもなく溢れてくるのを、自身の指を突っ込んで掻き出すようにして洗う。はっきり言ってあれほど延々と相手をさせられては粘膜すら擦り切れてひりひりと痛んでいるだろうが、ミカは敢えてそれを無視。


その痛みに構わずに丁寧に洗うことで清潔を保ち傷の治りを早めるのである。


それと同時に、痛みがどの程度のものかも確認し、明日も問題なく務めが果たせるかどうかを自らの頭の中で検討する。


正直なところ、一日二日くらいは休んで回復を図ったほうがいいかもしれないとも思ったが、彼女はそれを口にするのではなく、


『一晩で回復させる』


ことを選んだ。


こんなことで音を上げていては、


<可哀想な女>


になってしまう。そんなことは認められない。


股間を洗い終えると、今度は頭を洗う。指先で丁寧に地肌をマッサージし、良好な血行を保つ。頭髪が健康でないと見た目が途端にみすぼらしくなる。それを回避しなければならないからだ。


頭をすすぎ、次は体に移る。布などは敢えて使わず、たっぷりと泡立てた石鹸を素手で体に撫で付け、やはりマッサージのようにして洗う。布で強くこすっては皮膚に細かい傷を付け、かつ、皮膚にいる常在菌を必要以上に洗い流してしまい、逆に状態を悪くしてしまうことがあるとミカは知っていた。


彼女のそれは、


『風呂で体を洗う』


と言うよりも、


『超のつく精密機械を徹底的にメンテナンスしている』


と言った方が近いかもしれない、職人のそれにも通ずる綿密な<作業>であった。


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