いい気はしない

そうして看守長はもう二度とミカを抱かなかったものの、他の看守達はこぞって彼女に群がった。


それこそ死肉に群がる蝿のように。


もっとも、ミカ自身は、<死肉>に喩えるにはいささか毅然としすぎていたが。


そんなこともありつつ、ルパードソン家の邸宅であった城を監獄へと改修する工事はなおも続けられていた。


これは、<監獄への改修>という目的もありつつも、その実態は、ルパードソン家の人間らに対する<懲役>という意味も含めたものでもあり、


『自分らの居城を自身を収監するための監獄へと作り変える作業を行わせることそのものを<罰>とする』


としたわけだ。


この辺りも、最初は単に、


『監獄で禁固刑に処する』


とされたのがその場の思い付き的に何度も変遷し、現在の形に落ち着いたというものである。


これらについては、まだまだ<法の下の支配>といったものが十分に成立していないことによる弊害ではあるものの、単なる禁固刑だった場合には、


『毎日ただ牢に閉じ込めたまま食事だけを与える形になっていた』


ことでその<厚待遇>に不満を抱いた看守らによる<虐待>を誘発していた可能性もあるので、もしかするとこの方が良かったのかもしれない。


現状、作業は厳しいとはいえ、少なくとも食事と休息は保障されているのだから。


ここも、


<悪女に手玉に取られた憐れな連中>


的な、ある種の同情が下地に有る可能性もある。


そして実は、最終的な<処分>もいまだに決まっていなかった。


当主代理であるウルフェンスの弟についてはさすがにミカと共にギロチン刑に処される可能性は高いものの、それすら最終判断はされていないのだ。どうやら<議会>内でいろいろと綱引きが行われていて、ルパードソン家が持つ様々なパイプやコネクションを今後も活かしていきたいと考える勢力と、ミカに与した者はとにかく厳罰に処すべしと考える勢力があるようだ。


そういうことも影響しつつ、現場での処遇については看守長に一任されているため、かなり好き勝手しているというもある。


そんな中で、ミカは、他の囚人らからの恨みを集めてもいた。


ルパードソン家の人間達としては、せめて自分達に対して『申し訳なかった』と謝意を示すなりしてくれれば多少は気持ちの収めようもあるものの、謝罪どころかまるで反省している様子を見せないことで反感を覚えているのだろう。


実際、ミカは、自分の身の回りの世話をしてくれている元メイドの囚人達に対しても一言もなく、『自分に仕えてくれて当然』という態度を見せている。


なるほどこれではいい気はしないのも当然なのかもしれない。


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