使う前に

こうしてミカは二週間以上ぶりに体を洗ってもらえた。


とは言え、最初はあまりに汚れがひどかったからか石鹸を塗った布でこすっても泡が立たず、ぼろぼろと大量の垢が零れ落ちるだけだった。


しかし、


『徹底的に綺麗にしろ』


と命令を受けていた<元メイド>の囚人達は黙々と布でこすっては湯で流すという作業を続け、やがてちゃんと泡が立つようになってから今度は頭を洗い始めた。


が、頭はさらに汚れがまとわりついていて、体の時の倍ほども時間がかかった。


その様子を、看守長をはじめとした男性看守達がニヤニヤと何とも言えない笑みを浮かべながら見ている。


最初はあまりの不潔さに顔をしかめていたが、清潔さを取り戻すにつれ、すっかり痩せ細ってしまったとはいえ以前は<絶世の美女>とも謳われたミカの肢体に明らかに性的な興奮を覚えているのが見てとれた。


そしてそれは、どうして彼女が洗われたのかということも窺わせた。


それを裏付けるように、洗い終えられたミカに、


「お前には、ギロチンにかけられる前にたっぷりと<お勤め>をしてもらわなくちゃならねえからな。


ここは、今じゃすっかり街からも遠く離れた監獄だ。気楽に女も買いに行けねえ。で、せっかく女の囚人もいるんだからよ。役得ってことだあな」


下卑た笑みを浮かべながら看守長が言った。


そう。自分達の欲望を満たすためにミカも使おうというのだ。が、それにはさっきまでの彼女ではあまりにも汚すぎてそんな気にもなれない。だからこうやって『使う前に』綺麗にしたということだ。


実は、この時、ミカを洗った<元メイド>達もすでにその役目に就かされていた。


とは言え、彼女達は、まあ、ルパードソン家の男達の夜伽の相手も仕事の内だったので、ある意味では慣れていたこともあって、それほど抵抗も、無いことはなかったにせよ、諦めるのも早かったようだ。


どうせ抵抗したところで扱いが悪くなるだけである。素直に言うことを聞いていれば、拘束も厳しくない。鎖も外され、<自由>とまでは言えないにせよ監獄内であればどこへでも行ける。


己の分をわきまえて役目に徹しようとしているということだ。


そこに、ミカも加えられることになったわけだ。


「……」


それを察しても、ミカは表情一つ変えなかった。おそらく、こうなることは予測の上だったのだろう。


と言うか、今の彼女は、


<帝国の最大の怨敵>


であり、どのような形で悪感情をぶつけられようともおかしくない存在でもある。


肉欲の捌け口にされる程度のことは、むしろマシな方であると言えるのだろう。


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