理想的な領主と領民の関係

マオレルトン領の人々は、領主がそうだからか、非常に穏やかであたたかく柔和な者達だった。


「リオポルド陛下! 万歳!! ミカ様! 万歳!!」


王と王妃の姿を一目見ようと、マオレルトン卿の屋敷前の広場に集まった民衆は、皆、朗らかな笑顔で二人を讃えた。


ある意味では<理想的な領主と領民の関係>が体現されている光景だったと言っていいだろう。


しかも、領民達は王と王妃を歓待するため、踊りを練習してきた。<パヴァーヌ>だ。本来なら貴族が踊るそれを、マオレルトン卿は領民達にも広め、王と王妃を歓迎しようとしていたのである。


領民達も自ら進んで領主と王と王妃のために練習に励んだそうだ。強制されたわけでも、嫌々やってきたわけでもないのが、にこやかに笑顔を浮かべながら広場を踊りつつ行進する人々の表情からも分かった。


本当に心温まる光景だった。


これにはさしものミカも穏やかな表情で見守っていたようだ。


何しろ、<歓迎の集会>そのものも二時間ほどで終わり、人々も皆、それぞれの仕事へと戻っていったのだから。


「ミカ、私はこのマオレルトン領の人々が好きだ。彼らは清貧を是とし、とてもあたたかい心の持ち主で、私を支えてくれる。私は、ここの人々のために王になったようなものなんだ」


リオポルドもとても穏やかな笑顔で、ここまで見た中で一番、安らいだ笑顔で、そう言った。心からそう思っているのが分かる。


「陛下のお気持ち、分かります。私もここの人々はとてもあたたかい人々なのだと感じました」


ミカも柔和な表情でそう応えた。


そんな二人の様子を見て、ウルフェンスもホッとする。ようやく打ち解けたように見えたからだ。夫婦として仲睦まじいそれになれとまでは言わないにしても、せめて国民の前では良い関係を築けているように見えて欲しかったというのもある。


だが……




領民による歓迎の集会を終えると、ミカは早速、マーレ達と積もる話に花を咲かせているリオポルドを置いて、領地の視察へと向かった。


この地の詳細な地図を懐に忍ばせて。


ミカは、領民達に話を聞く前に、その地図を何度も広げては、実際のそれと見比べているようだった。


そして、それほど高くない山へと伸びる道では、その山を睨み付けるように見、


「あれが、デヴォイニト・フローリア王国との国境だな……?」


ウルフェンスに問い掛ける。


するとウルフェンスも、


「はい。そうです。デヴォイニト王国の国王は、十年前、我が国と国境を接していたフローリア公国の女王と婚姻し、両国は友好的な関係を保ちつつ、デヴォイニト・フローリア王国として生まれ変わったのです」


と説明したのだった。


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