行列舞踏

「リオポルド陛下とミカ王妃に心からの敬服を!!」


代表者のその掛け声と共に、二人の結婚を祝う<夜会>は始まった。


参加者が揃ってゆっくりと踊りつつフロアを行進する。


<行列舞踏>と呼ばれる、ある意味では畏まった、宮廷でこそ踊るためのそれは、<パヴァーヌ>と呼ばれるものとほぼ同じだっただろう。


にこやかに華やかな様子を見詰めるリオポルドの横で、ミカはただ静かに見守っている。


けれど、よく見ると、分かる人間には分かるのだが、この時のそれは執務室での彼女の表情とはまるで違っていた。冷淡ではあるものの、険しくはないのだ。


それはつまり、彼女は決して怒っているわけではないということである。


というのも、ミカ自身は芸術や芸能には関心はないものの、だからといってそれらを『無駄な物』とは思っていなかった。それらにも相応の価値はあり、文化においては必要なものだとは思っている。


ただ、分別もなく際限もなくそれらに溺れることが、


『非生産的だ!』


と感じるだけで。


だから、最初のうちは彼女なりに楽しんでもいたのだろう。しかし、パヴァーヌを終えてそれぞれの参加者が好き勝手に踊ったり飲み食いをし始め、しかもそれが何時間もとなってくると、彼女の表情は明らかに硬く強張ったものになっていった。


『お祝いはもういい。いつまでこの馬鹿騒ぎを続けるつもりなのだ……!?』


と思い始める。


するとそんな彼女の様子を察したリオポルドが、


「ミカ、気分が悪いのなら先に休んでくれていいよ。皆には私から言っておくから」


と気遣ってくれた。


そうだ。この若き国王は、こういうところは人として素晴らしかった。ただ、致命的に<為政者としての資質>に欠けているだけなのだ。時には厳しい判断もしなければならない<人の上に立つ器>ではない。


<いい人>なだけでは務まらないのである。


『不幸な人だ……』


リオポルドの言葉に甘え中座することにしたミカは、彼に礼をしながらそんなことを考えた。


それから自室(先程のものとはまた別の彼女のためだけの部屋)へと戻り、すぐさま着ていたもの全てを脱いで<湯あみ>をした。この部屋には浴室が備えられていたのだ。


本当は自分でさっさと体を流してしまいたかったのだが、やはり侍女が彼女の体を絹で撫で洗う。それがまたまどろっこしくて表情が強張る。


「遅い! もっと急げ!」


と叱責し急がせるものの、さりとて王妃の体に傷でも付けようものなら即刻<死罪>となるのだから、侍女達も明らかに困っていた。


なのでそれ以上は言わず、ようやく湯あみを終えて、なのにまた、


<就寝のための化粧と着付け>


を施され、彼女がようやく眠りにつけたのは、すでに空が白み始めた頃なのだった。


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