氷の線上

山葡萄

第1話 別荘

 湖が冬になると凍ってアイスリンクになる。

 フィギュアスケーターの立花あずとコーチの澁谷宰は、別荘に車で到着したところだった。

 「寒~い。いつ来ても刺すような寒さ。」

 「俺は電熱線や水の元栓を見てくるから先に入ってて。」

 あずは、重い玄関の扉の鍵を開けてさらに奥の部屋にある暖炉の火をつける。薪を入れて煙突も開き煙が上がるようにしてやる。

 しばらく誰もいなかった家の中はどこか寂しげな雰囲気を醸し出している。

 キッチンへ行くと、浄水器の電源を入れてやかんでお湯を沸かす。窓からコーチの澁谷が携帯で話している姿がみえた。後ろ姿で窓からの距離は近い。あずは少し脅かしてやろうと思い、静かにキッチンの小窓を開けた。

 案の定話している声が駄々漏れである。

 「わかっているよ。君が一番だから…。明日にでもこっちが片付き次第会いに行く。…そうだなそっちに着くのは夕方頃だと思う。…うん、愛してるよ。それじゃ…」澁谷は何事もなかったかのように歩いて向こうに貯蔵庫のある小屋へ行ってしまった。

 沸騰するやかんが、ピーっとなってもあずは窓を見つめたままだった。

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