ゼロ地点へ

今村広樹

本編

 サクサクと雪を踏みしめながら歩いて行くと、やがて彼の家に着く。

 久々に会った彼の顔は、幽霊のように青白くなっていた。

「なに、病気とかしていたわけじゃない」

 私の唖然とした顔を見て彼は儚く笑う。

 彼と私は小学校から仲が続く、ようは幼馴染みというやつである。その学校はいわゆるエスカレーター校であり、大学まで交友があったのだが、私はそのまま大学に残り、彼は家の事業を継ぐと言って、故郷に帰って疎遠になった。それが、急に自分の家に私を呼ぶという。

 彼の家はカーペンターズ・ゴシックと呼ばれる様式で、外側の宮殿のような厳めしさと中側の普通のキッチンやソファー、テレビがあるチグハグさが特徴で、その他の内装も中世のモザイク画、年代物のレコード(ライチャス・ブラザーズの『アンチェインド・メロディ』とか)、オテイサの『空っぽの箱』のレプリカ、デシタル時計、多分成宮由夢画であるウサミン星の風景など、カオスというしかない雑多さが特徴の家だ。

「それで、どうかしたのかい?」

 私が恐る恐る問いかけると、彼は

「まあ、これを見てくれよ」

と、壁を指差した。

 私は吃驚ビックリしてしまった。

 彼の指差す先には、彼ソックリの半身像があったからである。

「なんなんだい、これは?」

「これは僕の弟さ、まあ魂入らずといったところだね。でも、後少しで行けそうなんだ」

「どこに?」

「仮にゼロ地点とでも言おうかな、魂が入ってる状態だよ」

と、彼は心底こころから楽しそうに笑った。


 しばらくして、私の元に二人の警官がやってきた。

 警官たちの話によると、彼と弟が失踪したという。

 私は、壁にあった半身像について聞いた。

「そういえば、そんなのが2ありましたね、それがどうかしたっスか?」


 その日の夜、私は彼がゼロ地点に行った記念と、二度と此処には帰ってこないであろう彼と弟のために、泥酔ふつかよいするほど酒(ドラフトワンの容量が減ったのは、酷い話じゃないか?)を呑んだ。

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ゼロ地点へ 今村広樹 @yono

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