第6話 知られたくないことほど他人はよく聞いてくる
金富さんと別れた後、僕は警察の方に家まで送っていただいた。
家に着いた僕は、一言両親に挨拶したいと言った警察官のおじさんと一緒に家に入った。
「ただいmへぶっ!?」
家に着くなり、ただいますら言う間もなく、僕は母さんにビンタされた。
「遅くなるなら、遅くなると連絡しなさい…!道に迷ったなら遠慮なく親を頼りなさい!!私たちがどれほど心配したか……。」
そう言った母さんの目はさっきまで泣いていたのか、少し赤く腫れていた。
「でも、良かった…。心が無事に帰ってきてくれて…本当に…良かった…。」
そう言いながら、母さんは僕を優しく抱きしめた。
「心、父さんたちは確かに、心のやりたいことに関しては基本的に放任して、心の好きなようにやらせてきた。でもな、それは心が危ない目にあってもいいというわけではないんだ。今まで放任してきた以上、これからの心の行動を無理やり縛るようなことをするつもりはない。でも、父さんと母さんは、いつも心のことを本当に大切に思っているということだけは忘れずに行動してくれないか?」
今まで、放任してきたことに少なからず負い目を感じている様子の父さんは、穏やかな声で僕にそう言った。
「うん。わかったよ。父さん、母さん、心配かけてごめん。これからはもっと考えてから行動するよ。もしかしたら、迷惑をかけることがあるかもしれないけど…これからも、よろしくね。」
「馬鹿ね…子供が親に迷惑をかけるのは当たり前でしょ?」
そう言って、母さんは再び、僕をぎゅっと抱きしめた。
「あのー、すいません。少しだけいいですか?」
すると、先ほどまで完全に空気と同化していた警察官のおじさんが僕らに話しかけてきた。
あ、完全に忘れていた。
「失礼しました。息子を保護して、更に家まで送っていただいてありがとうございました。」
そう言って、父さんと母さんは警察官のおじさんに深々とお辞儀をした。
「いえいえ、私は当然のことをしただけにすぎません。むしろ、私たちは息子さんにお礼を言わなくてはいけません。息子さんのおかげで、私たちは一人の女性を救うことが出来たのですから。」
「そうなんですか…?」
「はい。ですから、あとで息子さんのことを褒めてあげてください。それでは、私はまだ仕事も残っていますので、失礼しました。」
そう言って、おじさんは帰ろうとする。
「おじさん、僕は通報しただけで、おじさんたち警察官のみなさんがいなかったら、あの女性だけじゃなくて、僕の命も危なかったかもしれない。だから、助けてくれて本当にありがとうございました。」
僕はおじさんに改めてお礼をした。
おじさんは少し驚いた顔をしたあと、穏やかな顔になって、僕の両親に語り掛けた。
「立派な息子さんをお持ちですね。」
「「自慢の息子です。」」
父さんと母さんは同時に即答した。
その様子を見た、おじさんは再び少し驚いた顔をした後、今度は僕に向かって語り掛けてきた。
「いい…両親だな。」
「自慢の両親です。」
「そうか、なら自慢の両親を悲しませないようにしろよ?困ったことがあったらこの番号に電話をかけてくるといい、力になることを約束しよう。」
「え?いいんですか?」
「ああ。」
「でも、どうして?」
「坊主の家族が気に入っちまったから…かな。」
「それでは、私はここで。失礼しました。」
そう言って、おじさんは僕に電話番号が書いてある名刺を渡して、今度こそ帰っていった。
そのあと、僕は心配をかけてしまったことを両親にもう一度、謝った。
すると、両親は笑顔で僕を許して、僕の行動を褒めてくれた。
その日は、久々に家族三人で並んで寝た。
不思議と、いつもより心地いい感覚に包まれた僕はぐっすりと眠ることが出来たのだった。
*****
あの事件から三日たった。
事件に巻き込まれたこともあり、一週間は20時以降の外出を控えるように両親に言われた僕は、この一週間で「シン」としてどのように活動していくかを考えているところだった。
まずは、活動時間か…。基本的には、夜だよな。両親には、ランニングに行ってくると伝えれば一時間は活動できるはずだし。
できたらコスチュームみたいなのも欲しいよね。
漆黒のコートを翻して、事件の現場に近づいていく謎の男…うん!いい!
やっぱり、格好については早めに揃えよう。幸い、今まで貯めてきたお小遣いやお年玉があるから、それなりの格好にはできるはずだ…。
それと、ゆくゆくは武器も欲しい。
徒手空拳だけというのも悪くはないが、やっぱり武器があるのとないのとでは強キャラとしての在り方に大きな違いが生まれる。
だが、そもそも武器はどこから入手できるのだろうか?
残念ながら、僕にそんなつてはないし…。
「……くん。田中心くん!」
「は、はい!」
先生から、声をかけられ僕の意識が現実に引き戻される。
「先生の授業を受けるつもりはあるんですか…?」
「も、もちろんです!」
「じゃあ、机の上にある数学の教科書はなんなんですか。先生の授業は社会ですよ?」
不味い…どうやら僕が考え事をしている間に数学の授業と10分間の休憩時間は終わってしまっていたらしい。
「普段は真面目な田中くんが授業の間のチャイムにも気付かないなんて、よっぽど大事なことを考えていたんでしょう。ですが!今は授業中です!今回は見逃しますので、先生の授業をしっかり受けてくれますか?」
「はい。すいませんでした。」
その返事に満足したのか、先生は再び、授業を再開した。
そのあとは、何事もなく授業が終了した。
「田中君は放課後、先生のとこに来てください。」
しかし、僕がとてつもない悩みを抱えていると勘違いした先生によって、僕のためのお悩み相談室が放課後に開催されることが決まったのであった。
「くくく…。本当、お前何考えてたんだよ。」
そう言って、僕のもとに心の底からおかしそうに笑いながら速水がやってきた。
「なんだって、いいだろ。僕にとっては大事だったんだから。」
「なるほどねえ。ところで、聞いたか?聖園さんと神崎のやつ、三日後にはあの白銀学園に転校することが決まったみたいだぜ。」
白銀学園とは、国が運営する、国家にとって重要な人物が通う学校である。
小等部から高等部まであり、基本的に学生でありながら異能力者である人物や原石、天皇陛下の一族の子供や総理大臣の子供などが通っている。
だから、次代の異能力者としてこれから活動していく、優理や神崎がその白銀学園に行くというのはとても自然な流れであるといえるが……。
「さすがに、三日後というのは急すぎないか?」
「そう!そこなんだよな、気になるのは。一部の噂では、政府がなにかを察知して焦っているんじゃないかって話だ。」
それって、もしかしなくてもリバーシの復活のことじゃないの?
そう思いながらも警察に口止めされている僕は平静を装って、会話を続ける。
「何かって、なんだよ?」
「その何かが分かんないんだよなぁ。うちの親父も、最近はそれを探るのに必死であんまり眠れていないみたいだぜ。もしかして、あのリバーシが復活してたりしてな。」
ビクッ!
「ハハハ…。なに、言ってんだよ。そんなこと…あるわけないだろ?」
「そうだよなー!まさか、そんなわけないよな?」
僕の動揺を感じ取ったのか、ニヤニヤしながらこちらを向いてくる速水。
「そうだよ!馬鹿なこと言ってないで、早く席に戻りなよ!ほら、先生も来たしね。」
「まあ、いいや。でも、後で何を隠してるか話してもらうからな。」
そう言って、速水は自分の席に帰っていった。
面倒なことになったな…。
終礼はすぐに終わった。
僕は速水に声を掛けられるより早く、お悩み相談をするべく社会の武田先生のもとへと急いで向かう。
「あ、おい!」
「速水、ごめん!僕、お悩み相談に行かなきゃ!!」
幸い、今日は金曜日。ここを耐えれば土日の間は速水から逃げられる!
面倒とか思ってたけど、お悩み相談のおかげでこの場を逃れることが出来た。
ありがとう!!待ってて!武田先生!!
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