秘密の幼馴染と平凡な守護者

ひらま・かずき

1話

俺は夏月(かずき)。

何処にでもいるような平凡な男子高校生。

そんな平凡な俺にも1つだけ自慢できることがある。

サッカー部のエースで学年1位の成績、また生徒会長までこなしていたこともある俺の幼馴染、冬陽(ふゆひ)の存在だ。

一応俺もサッカー部には所属している。


冬陽とは幼稚園に入る前からの仲で、家の近くの公園でサッカーボールで遊んでいた冬陽に話しかけたのがキッカケだ。

親同士も仲が良い。

冬陽の父親は冬陽の祖父から会社を託されて、1代で急成長させた敏腕社長だ。

俺の家は平凡なサラリーマン家庭で冬陽の裕福な家庭と格差はあるが、そんなことを感じさせないほど2つの家庭は仲が良い。


裕福な家庭だった為、冬陽が誘拐されかけたりした事もあった。

俺は親から言われた事もあり、学校の行き帰りなどよく一緒に行動している。

お坊ちゃまのボディーガードだな。


今日も部活後に帰ろうと声をかけたのだが、「用事があるから、ちょっと待っててくれないか?」と言われたので校門の前で冬陽を待っている。

多分、女子に告白でもされているのだろう。

冬陽は中性的な顔立ちでスラッとしていて、モテる。

1週間に1回くらいのペースで告白されている。

告白される度に断っているようだが。


15分程すると校舎から冬陽が出てきた。

ん?誰か連れてきているようだ。


「冬陽、誰なんだ?その子は」

「後輩の子だよ。告白を断ったんだけど、諦めてくれなくて」

「初めまして。1年の斉藤春香(さいとうはるか)です」

「よろしく。平田夏月(ひらたかずき)だ」

「知ってますよ。有名ですよ、ボディーガードさん」


そう俺は冬陽の横で行動を共にしている為、周りからもボディーガードと呼ばれている。

間違ってはいないので否定もせずそのままにしている。


「夏月、この子も一緒に帰ってもいい?」

「いいんじゃないか?」

「やったー!そうだ、春香って呼んでくださいね」

春香は嬉しそうにそう言った。

冬陽は申し訳無さそうにしていたが、たまには良いだろう。


「さぁ、帰りましょ」

そう言って春香は俺たちの手を引いて歩き出す。


「そういえば、今度サッカー部の試合があるんですよね?見に行っても良いですか?」

春香は歩きながら聞いてくる。


「見に来てくれるの?嬉しいなぁ」

冬陽がニコニコしながら返す。


「今度の試合はウチの学校でやるからちょうど良いな」

「先輩たちも出るんですよね?頑張ってくださいね」

「僕たちはスタメンで出る事になってるよ。楽しみにしててね」

「はい、応援しに行きますね!」


そんな話をしていると家の前に着いていた。

ちなみに俺と冬陽の家は隣同士だ。

大きさは倍ぐらい違うのだが。


「もう着いちゃったね」

「じゃあ、私はこれで」

意外にも、あっさりと春香は帰っていった。

一緒に帰るほど積極的なのかと思ったのだが...。


それから俺たちはたまに3人で帰るようになった。

毎日じゃないのは春香が「邪魔しちゃいけないので」とかなんとか言ってた為だ。

よく分からない。


試合の日が訪れた。

春香も含め、多くの女子がグラウンドの外で集まっていた。


俺たちはスタメンで出場した。

冬陽がFWで俺はDFだ。

試合開始早々、冬陽が敵を避けゴール前に走り込み、1点を先取した。

これが冬陽がサッカー部のエースになった要因だ。

サッカーといえばタックルなど相手と接触することが多い。

しかし冬陽は一切当たらない。

ゴール前まで相手を全て避けて行ってしまう。

というか俺は冬陽が相手と接触している所を見た事がない。


俺はというと平凡。

何か突出した技術があるわけじゃない。

ただ目の前に来た相手のボールを取りに行くだけだ。

冬陽に渡すことが出来れば、決めてくれる。


結局、その日の試合は4-0でこちらの圧勝だった。


試合終了後、応援してくれた女子たちが冬陽を囲う。

俺はもちろん冬陽の横だ。

皆、冬陽に一斉に話しかけてくるので冬陽はいつも困惑して固まってしまう。


そんな中、春香が女子を押しのけて、俺たちの所まで来ると、手を引いて助けてくれた。


「悪い、助かった」

「ごめんね、いつもああなんだ」

「いえいえ、2人ともかっこよかったですよ。お疲れ様です」


「冬陽さんはもちろん凄かったですけど、夏月さんも凄かったですよ!最後の砦って感じでした」

「でしょー、夏月は凄いんだよ!自分では俺は平凡だー、って言うけどね」

「応援してた女子たちも夏月さんに興味津々でしたよー、モテちゃうんじゃないですかー?」

「はは、興味を持ってくれる事は嬉しいな」

そんな事を言いながら、冬陽の方を見ると何だか怒っているようだ。いや、拗ねている?

「どうしたんだ、冬陽?」

「何でもないよ」

「そっか」

「えぇー!嘘でしょ、夏月さん分からないんですか?」

「何が?」

俺がそう言うと春香は冬陽を手を引いて中庭の方へ連れて行ってしまった。

「ここで待っててくださいね!」

俺は何も言わずに待つことにした。


~春香&冬陽side~

「ここにしましょうか」

春香たちは中庭にあるベンチに座った。

「あの様子だと、夏月さんは気づいてないんですか?」

「春香ちゃんは気づいてるんだね。誰にも気づかれた事無いのに」

「あはは、私も最初は確信してなかったですよ。だって男子サッカー部のエースが【女子】だなんて。疑問すら浮かびませんでしたよ」

「なんで気づいたの?」

「夏月さんと話している時の雰囲気ですね。恋する乙女って感じでしたよ?」

春香がお腹を抱えて笑う。


「まぁ、ほとんど気づく人いないんじゃないですか?男装が似合い過ぎですよ。夏月さんが気づかないんですから」

「夏月と出会った頃には男の子の格好をしてたから。お坊ちゃまだと思われてるよ」

「私の姉も男装をしていたんですよ。高校の間だけでしたが。姉は中学生の頃にストーカー被害にあっていたので。それでなんとなくお姉ちゃんみたいな格好してるなぁって」

「そっか、お姉さんが男装を.....」

「まぁ、今は護ってくれる人が居るみたいですけどね」

「護ってくれる人か...」

「私が女だと分かっても、夏月は変わらず護ってくれるかな」

「きっと、変わらず護ってくれると思いますよ」


冬陽さんが夏月さんを恋する乙女のような目で見ていたように、夏月さんも冬陽さんを同じような目で見ていたんですから。


~夏月side~

「お待たせ」

「お待たせしました」

冬陽と春香が戻ってきた。


「さぁ、帰ろうか」

「夏月、ちょっと待って」

「どうした、冬陽?」

「聞いて欲しいことがあるんだ」


「あ、私用事があるんで先帰りますね。では」

そう言って、春香は走って帰ってしまった。


「で、俺に聞いて欲しいことって?」

「夏月にずっと秘密にしてた事があって...」



「お前が男装している事か?」

「どうして.....気づいてたの?」

「まぁな。ずっとお前の横にいたんだ。気づかないわけないだろう」

「そっか...そうだよね、あはは...」

「いつ気づいたの?」

「初めて会った時だよ、なんとなく女の子かって思ったんだよ」

何故だか分からないが何故か女の子と確信した。


「えぇー。最初から?」

「あぁ。でも女の子の呼び出しに応えてたから女の子が好きなんだなぁって」

「ち、違うよ!?私が好きなのは.....」

冬陽が固まる。

「私が好きなのは??」

俺が聞き返すと冬陽は真っ赤になりながら

「夏月だもん!」

と言って俺に抱き着いてきた。

「うおっ」

勢い良く抱き着いてきた冬陽を受け止めた。


「俺も好きだよ。ずっと前から」

冬陽にそう返すと

「う、うわぁーん、良かったよぉー」

と言って、泣き出した。

とりあえず抱きしめて落ち着かせると、周りから見られていることに気づいた。


所々から「やっぱり女の人だったんだぁ」とか「やっとくっついたか」などの声が聞こえてくる。

春香もこっちを見ながらニコニコしていた。


意外と冬陽が女の子だと気づいていた人も多いようだ。

顔立ちは中性的だし、仕草も女性らしい部分もあるからな。


周りの祝福ムードの中に俺の方を睨んでくる一部の男たちがいるのが目に入った。

冬陽のファンクラブというやつだろうか?

今にも殴ってきそうな形相をしている。


ああゆう奴らは何をしでかすか分からないからな。


まぁ今、俺に抱き着いている冬陽が笑顔でずっと隣にいてくれればいい。

今まで通りだ。

幼馴染から恋人に変わっただけだ。


今までもこれからも俺は冬陽を護るボディーガードなのだから。

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