私の妹が、そんなに繊細なわけがない。

ギルマン高家あさひ

一.

 ある種の神話や祭祀書は「真実」を語っているのだという。

 それらが存在を伝える神々や悪鬼、怪物は、一般的に「正しい」と信じられている地球の歴史、人間の歴史の域外に置かれ、忘れ去られてしまったけれども、かつて実際に、この地上を闊歩していたものたちなのだ。

 そして、そういった伝承や書物が予言する恐るべき神の復活や怪物の跋扈と、それに因る人間世界の終焉も、「いつ」になるのかには議論の余地があるとしても、かならず訪れる……。

 ……はじめに断っておくと、私はいまでもこのような説の数々を、ことごとく疑っている。

 神話というのは、あくまでも「物語」にすぎないのだし、伝説上の存在などというものは、空想の産物にほかならない。

 それに、もし、そのようなものたちが――特に、一時期ネット上のコミュニティで話題をさらった「眠りについた古代の支配者」などというものが――ほんとうにいるというのだったら……。

 いや、やっぱり、これは、あとで。


 ○


「それにしても、最初に連れてって、ってメールがきたときはびっくりしたよ。楓藍ふうらがこういうのに興味あるとはおもってなかったし」

 電車が始発駅を発車してしばらくたってから、隣に座っていた真月まつきが私に言った。

 彼女とは高校時代からの友だちだった。

 絵、というより、漫画を描くのが趣味で、高校一年生で知り合ったころから、パソコンでイラストを描いて、画像共有サイトにアップする、というようなことをやっていた。

 真月は、自分の脚のあいだに据えた海外旅行にでも持っていくような大きなスーツケースが転がっていかないように、両手でおさえている。

 その中身は、旅行の準備ではない。

「そうかなあ」

 私は、あいまいな笑顔をつくりながら、そうこたえる。

「だって、もし高校のころから誘ったら来そうって感じだったら、そのときに誘ってたよ」

「あー、そうかもね」

 大学二年生になるまえの春休みから、私は彼女に案内してもらって同人誌の即売会に足をはこぶようになっていた。

 今日も、都内某所でひらかれたイベントからの帰りなのだ。

 真月のスーツケースの中に詰まっているのは、本日の戦利品。

 ただ、私の場合、即売会に行くのは、純粋に頒布物を購入するため、というわけではなく、参加している同人作家の何人かを探し出し、話を聞くのが目的だった。

 そんな活動をするようになった理由。それは……。

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