第5話 タピオカミルクティー

(学校を出て、電車で数駅。新宿駅の東南口から徒歩3分。私は、金髪ツインテール、ニーハイ美少女の汐海 クリスティーナ 凪沙さんと、タピオカの列に並んだ。


 移動中、電車に乗っていも、歩いていても、男子の視線が汐海さんに吸い込まれていくのを目の当たりにした。当然のように女子の視線も汐海さんに吸い込まれていく。


 私は何か話さなきゃ、と焦れば焦るほど沈黙。


 視線は、無意識に汐海さんの胸にむかうありさま。)



(学校を出て、電車で数駅。新宿駅の東南口から徒歩3分。私は、透明感のあるミディアムヘアがふわっと揺れる鶯菜乃葉さんと、タピオカの列に並んだ。


 驚いたのは、電車に乗っても、歩いていても、男子の視線が私よりも先に鶯さんを捕らえることだ。その顔が一瞬ぱっと明るくなるのを見逃さなかった。

 クラスのぼっちという先入観を持たずに鶯菜乃葉さんを見ると、とても可愛い人なのだ。


 先ほどから鶯さんの視線が分かりやすく、胸にくる。


 男子はいつもそう。私の胸をよく見てる。

 もしかし、鶯さんって男子だったりして……。)



「で、菜乃葉さん! どれ飲みたい? おごりだら好きなの頼んでいいわよ。」


(汐海さんに聞かれて、カウンターに身を乗り出しメニューを見る。どれも美味しそう。それじゃ、)


「私は乳頭にゅうとうミルクティー。」


「……?!」


乳頭にゅうとう、なんだか美味しそうな響きだけど。周囲がクスクス笑い始めている。えっと、乳頭って乳首じゃん!!!)


「間違えたっ! そんなのないない。タピオカミルクティーお願いします!」


(汐海さんの胸を見ていたら変なこと言っちゃった。タピオカの見た目って、乳首にそっくりな気はするけど……。)


(必死に誤魔化そうとしているが、発言は取り戻せないよ。大人しい見た目で、頭の中は乳首のことばかり考えてたりするのかな?)


「乳頭とタピオカが似てるか、私も実際に確かめてみたくなったよ。あはは。」


「だから、似てないって……。」


「ねぇ私も、菜乃葉さんと同じミルクティーにしようと思ってたから、一つを半分こしない?」


「い、いいですよ。でも、いいの?」


(それって同じストローってことだよね?)


(鶯さんが、上目遣いでもじもじしてる。もしかして、何か期待してるなぁ? 意地悪したくなってきた。)


「店員さん、ストロー二つください!」


(その手があったか。

 汐海さんがストローをくわえる唇に、思わず視線がむかう。


 あの唇だ。私の唇を奪ったのは。)



「――――汐海 クリスティーナ 凪沙さんだよね?」


(突然、汐海さんを呼び止める声に、はっとした。

 汐海さんも驚いている。)


「隣の学校の安藤です。汐海さんの名前は俺の学校でも超がつくほど有名ですよ。出会えて嬉しいです。」


(そう言うと男の子は手に持っていたタピオカを飲みながら、自己紹介を始めた。爽やかで、背が高くてイケメン。サッカー部でキャプテンをやってるらしい。


 汐海さんは、表情を変えずに男の子の話を黙って聞いている。男の子は、私をまるで空気のように扱い、視線を合わせてこない。


 楽しそうに話すイケメン男子と、美少女の汐海さん。

 どこから見てもお似合いだ。


 なんだか私、邪魔者みたいな気がしてきた。


 そっと、距離を置いて手すりに座る。

 男の子のキラキラした目。自信に満ち溢れた表情。2人は私とは生てる次元が違う。)



「これから俺と遊びに行かない――? あの子みたいな、影の薄い子と一緒にいたら、学園一の名に泥がつくよ。そう思わない?」


(私は汐海さんの返事を待たずに、静かに立ち上がる。

 これ以上は、耐えられなかった。


 目の前が涙でかすんでる。

 タピオカなんて、汐海さんなんて、嫌い。

 ヒロインなんて大嫌い。)


「ほら、邪魔者は帰って行くみたいだよ。」


「――ごめんなさい。」


「っえ?」


「私、あなたみたいなデリカシーのない人がダメなの。」


(背中から聞こえてくる汐海さんのピシャリとした声に、私は振り返る。)


「君さ、タピオカの列に並んでる時、順番を抜かしてたでしょ。それに見ての通り、私は今、お友達との時間を楽しんでいたの。その時間を邪魔してるのは、君。邪魔者は、君の方なの。上から目線で何様のつもりかな? 偉そうにしたいなら、他でやってくれるかしら。」


「――はぁああああ! 邪魔して悪かったな! 金髪ハーフだからっていい気になってんじゃねぇよおおおおおおおおお!!!!」


(っ……。

 男の子が汐海さんの胸ぐらを掴み、その勢いのまま壁に追い詰める。

 そのまま拳が汐海さん目掛けて――)


「止めてぇぇえええ!!!」


(叫んだ瞬間、汐海さんが微笑んだように見えた)


 拳を交わすと、男の子の手首を手に取り、そのまま体を反転させながら、くるっと関節を決めた。


 いとも簡単に男の子を押さえつけたのだ。)


「いってぇぇええよお! なにすんだよね!」


「君、どこの学校の安藤君だっけ? きちんとうちの学校の先生にも紹介させて欲しいわ。それから、私の悪口ならまだ許せるの。でもね、友達を悲しませるような発言は絶対に許さないから」


「おーい、安藤ー! どうかしたのか!!!」


(駅の方から数人の男の子が安藤って子を助けに走ってくる。汐海さんは咄嗟に、私の手を握ると、駆け出した。


 新宿の路地を右に左に。大通りを渡って、気がついたら、)



 ……ガチャ。(扉の開く音)



「ここって。」


「ラブホ。」


(照明は淡く、部屋には大きなベッドがひとつ。枕の近くには、コンドームも。

 私は、男の子じゃないから、ぞうさんはついてないので必要ない。


 ごめんよ、コンドームくん。

 次回のカップルに使ってもらってね。


 それにしても、ラブホなんて私には一生縁のない空間だと思っていた。

 

 まさかこんな形で足を踏み入れることになろうとは。


 話のネタにはあり。


 ベッドに腰を下ろすと、ふかふかしていた。

 男の子と女の子が、ここでエッチしてる。


 その想像だけで、血液がドット心臓に流れた。)



「安全な場所を探して走ったら、ここしか思いつかなくて。彼氏とじゃなくてごめんね。先に謝っておくわ。」


「いやいや! 私の人生プランに彼氏が出来る予定なんて一生ありませんから! 謝らないでくださいよぉ。


 ……恥ずかしながら、男の子を好きになる気持ちが、分からなくて。恋を知らないんです。人を好きになるってどういう気持ちなんでしょうね。高校三年生にもなって、ショックなんですよぉ。イチャイチャとかラブラブとか、女の子の好物を知らないなんて、人生損してる気分ですよ!」


「あはは。焦らない焦らない。……私もまだ恋を知らないから。でも、慌てなくてもいいと思ってるの。慌てると逃げていきそうじゃない? だから、その時がきたら。それでよくない?」


「えっ、凪沙さんが……。驚きました。じゃこうしませんか? 最初に恋を見つけたら、パフェをおごるってもらえるってどうですか?」


「いいねっ! じゃぁ私の勝ちだと思うなぁ。だって、もうすぐ恋を見つけそうなの!」


「えぇぇええ!! 私の負け確定じゃないですか! どんな人なんですか?」


(鶯さんに覗き込まれて、顔を押し退ける。)


「秘密! でも、きちんと恋を見つけたら、一番最初に菜乃葉さんに教えるね。約束する!」


(汐海さんは落ち着いてベッドに腰を下ろすと、手に持っていたタピオカミルクティーを見ながら、その次に私の胸に視線を向けた。)



「一生のお願いを言ってもいいかな?」


「ラブホで、またまたイベント発生の予感。あっ、コンドームを持って帰りたいなら、こっそりお願いしますね!」


「違う、違う!」


「では、覚悟はできましたので、どうぞ!」


「私、タピオカがね菜乃葉さんの乳頭とどのくらい似てるか確かめてみたくなったの。比べさせてください! 一生のお願いです!」


「ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダメですよ。恥ずかしいです! 人に見せるほどの物じゃありませんし。」


「比べるだけ! お願いっ!」


「一生のお願いを、私の乳頭に使っていいんですか? 本当にいいんですか! これで死ぬまで使えませんよ!」


「はい! 使わせてください!」


(学園のアイドルの一生のお願いなら仕方ありませんね。頷くと制服のワイシャツを脱がされ、ブラジャーを外された。


 私の乳首があらわになる。


 汐海さんがタピオカと見比べている。

 じろじろ見られて、乳首が反応してかたくなる。


 汐海さんの顔が、胸に近づいてくる。


 汐海さんは、タピオカを舐めて、次に私の乳首を舐めた。


 その先端から走った甘い刺激が全身に伝わる。


 ベッドに座っているのがやっとだ。)



(鶯さんの薄いピンク色の乳首を舌でころころと舐める。

 小さくて、柔らかいそれは、舐める度に……。)



「あのぉ、どうでしたか? タピオカと似てましたか?」



(私が尋ねると、汐海さんは、頬を真っ赤にしながら、視線を左右に泳がせた。


 慌てて私から距離を取り、もじもじしている。)


「秘密ですよっ! 私は一生のお願いを使ってこの真実に辿りついたのですから! そう簡単には教えてあげられません!」



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