第3話 初キス
(バタッ。と音がして、汐海 クリスティーナ 凪沙さんが、隣の個室から出たことを知る。
そのすぐ直後……、)
「……コン、……コン。」
(私が入っている個室をノックする音。
汐海 クリスティーナ 凪沙さんだ。
どうしていいのか分からず、咄嗟にノックを返した。
『入ってますよ』の合図。
また、すぐにノックが返ってくる。
その合図の意味は分からない。
開けたら、どうなる?
もう一度ノックされて……。
息を呑む。
私は、ゆっくりと扉を開けた。
そこに頬を赤く染め、両手でスカートをぎゅっと握る汐海 クリスティーナ 凪沙さんが立っていた。
顔を下げて、視線を左右に泳がせている。)
「……」
「……?」
「……」
「……?」
(無言のまま、一瞬、視線が合う。
他のクラスの女の子がトイレに入ってくる声に後押しされるように、汐海 クリスティーナ 凪沙さんが私の個室にさっと入ってきた。
……。
……鍵が閉まる。)
「ぁ……」
(あのぉ、と声を出そうとしたところで、突然にそれはやってきた。
唇を奪われ、体の芯が熱を持った。
唇に唇が押しつけられて、思わず目を閉じる。
全く理解できなかった。
でも、心臓がドキドキして破裂しそう。)
(気が付いたら、鶯菜乃葉の唇にキスをしていた。
強引と言われればそうなのかもしれない。
抑えきれなかった、私が一方的に悪いと思っている。
でも、キスした瞬間――。
その瞬間に、どこからか春風が吹いて、いつしか私は菜の花畑に立っているような感覚におちいった。
青い空と黄色い花がとても綺麗な景色。
春風にのせて、スカートが揺れる。
そして、木漏れ日の中で交わしたキスは、私の知らない――。
――菜の花の味がした。)
(汐海 クリスティーナ 凪沙さんにキスされたその瞬間――。
その瞬間に、私は遥か遠くまで水平線が見渡せる、海辺に立っているような感覚に襲われた。
潮風が吹いて、スカートが揺れる。
どこまでも突き抜ける青い空の下で、交わしたキスは、私の知らない――。
――夏の海の味がした。)
(そうして一週間が過ぎた。
汐海 クリスティーナ 凪沙さんとは、あいさつどころか、視線も合わなくなってしまった。
残酷な日常に、泣きたい気分だった。
ってかあの日だって、一言も話してない。
ただ、キスをされて、私は。
私の中でドキドキが弾けた。
その意味を知りたいと思っている。
汐海 クリスティーナ 凪沙さんは、いつものように頬を膨らませて、退屈そうに授業を受けているかと思えば、休憩時間になると、にこにことクラスのみんなと楽しそうに笑っていた。)
(あれから一週間が過ぎた。
鶯菜乃葉さんに話しかけようと何度かチャンスを伺ったけれど、あいさつどころか、近づくと遠ざかって行くのだ。
完全に避けられている。
嫌われたのだろう。
というかまだ、一度も話したことがない。
ただ、キスをして、私は。
彼女と話がしたい。
それだけ。
なのに……。
重たいため息が漏れた。
鶯菜乃葉さんは、いつものように教室の一番後ろの席から、遠くの空を眺めている。)
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