005.シニエと憑きもの
瓦礫の上に降りるとお姫様抱っこしたシニエが口を開いた。
「お燐。あれ」
腕の中でシニエが荷車を指差す。
「だからあれはあたしの「違う。下」」
下?言われて荷車の下を見るがよくわからない。もしやと思い。シニエを降ろすと手すりに手をかけて荷車を退かしたが何もない。
それでもめげずにシニエは荷車のあった場所を指し示す。
「ここ。下」
あ~と唸りながら。
「まったくあたしゃ犬じゃないさね」
悪態つきながらもお燐は腕を大きく振った。瓦礫を左右に掻き飛ばして掘り起こす。
紫煙の光を見逃さないようにと妖力を目に灯す。目を凝らして紫煙を探すが瓦礫にシニエの大きさくらいの穴を掘っても見当たらない。シニエの目には瓦礫の奥まで見えていたようだが、妖力を灯したお燐の目では、憑きものが小さかったり、憑いた呪いの力が弱かったりと紫色の光の弱く小さいものだと瓦礫に隠れて見逃してしまうおそれがあった。
まったくどこまで掘りゃあいいのやら。
見えている当の
シニエを探して視線を彷徨わせる。すると掘っている瓦礫穴ではなく。掻き飛ばした瓦礫のほうにシニエがいた。かがみ込んで瓦礫を漁っている。
あにゃ。勢いあまって吹き飛ばしちまったかい。ポリポリと爪で頬を掻いた。そしてシニエは丈夫な毛皮も爪も肉球もない。このままだと手を切るかもしれないことに気づく。
まったく。仕方ないね。お燐はシニエの側へと歩み寄る。しかし中々人間っていうのは器用さね。思いのほかひょいひょいと小さなものを小さな指で摘まみ上げて除けている。ただそれも無謀に見えて手を切らないかと少し心配だった。
「見つけた」
そうこうして言ううちにシニエが歓喜の声を上げる。何かをつまみ上げて立ち上がりお燐へと振り返った。うれしそうに見て見てと見つけた物をお燐へ掲げて見せて主張する。はしゃぐシニエの二本の指先には紫煙の光が立ち込めた指輪があった。指輪の穴からは鎖が垂れ下がりシニエのひじ下まで続いている。持ち主は指輪に鎖を通して首からかけられるようにしていたのだろう。
パンッ!
はしゃぐシニエとは裏腹にお燐は慌ててシニエの手から指輪を叩き落とした。
油断した。憑きものは何が付いているかわからない。魑魅魍魎に呪いと危険なものが憑いていた場合シニエが呪われる可能性があった。
「シニエ!」
無事を確かめようとシニエの名前を叫んだ。
シニエは大きく目を見開いて指輪を掲げた姿で硬直していた。シニエの周りだけ時が止まってしまったかのように静止している。微動だにしない。
何で?手から指輪を叩き落とされた理由を探していたのかもしれない。でもこれまでの情報やシニエの頭じゃ答えをつけられるはずがない。答えにたどり着けないシニエは結果として処理できなくて停止してしまった。
やれやれ。無事なようで何よりだとシニエの頭を前足でぽんぽんと叩く。
「いいかい!?憑きものは危険なのさね。憑きものにゃあ何が憑いているかわからない。それこそ呪いや悪魔がついてたら触ったあんたに害を及ぼすかもしれないんだ。見つけても気安く触るんじゃないよ。見つけたらあたしを呼ぶさね。わかったさね?」
「お・・・」
「お?」
「・・・おっふ」
やっぱり許容量を超えていたようだ。叩いてもいい音がしないから脳みそが詰まってることは確か。それでも時間の経過とともに頷いたところからどうやら理解はしてくれたらしい。
シニエは決して頭の悪い子ではない。知らないことが多いだけだ。必要ないから余計な知恵をつけないように注意していいように育てられてきたのだろう。
シニエがこの先どんな生き方を選ぶのかまでは分からない。ただ少なくとも拾った手前。火傷や足を治すまでは面倒を見るつもりだった。その先のこともある。
さっきみたいなことがないようにいろいろと教えてあげなきゃね。
お燐はふっと両頬を緩めてやわらかく微笑んだ。
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