第二十二話 ユーリカ

 だが、俺がその言葉に反応するよりもリュンが口を開く方が早かった。


「お、おばあちゃん!?」


「おば……なんだって?」


 リュンの口からなんだかやばい言葉が聞こえた気がする。

 だがそんな俺の声は聞こえなかったのか、リュンは少女をじっとみたまま固まっていた。


「どうしておばあちゃんがここに……!?」


「あなたが勇者様を連れて来てくれないから心配で見にきたのよ。それがあなたときたらまったく……」


 リュンが俺に抱きついているのをニンマリと眺める視線に気づくと、リュンは慌てて俺から離れた。


「こ、ここここれはその、違くてっ!」


「おませさんなのは昔からね。隠さなくてもいいのに」


「おませさんって言わないで!」


 確かにリュンはおませさんではない。

 俺の局部を食い入るように見つめていたド変態だからな。


だがあの小生意気なリュンが手玉に取られているあたりこの少女はリュンの扱いに相当なれているらしいことはわかる。


「ちょっと待ってくれ。話がまったく見えないんだが」


 内輪ノリで進んでいるらしい会話に待ったをかける。


「もしかしてリュン、あなた何もお話ししていないの?」


「うっ……」


 言い淀むリュンにため息をつくと、少女はペコリと頭を下げて言った。


「大変失礼しました勇者様。私の名はユーリカ・リフラ・リィンと申します」


「ユーリカ……って、あの魔法使いの?」


 リュンの話なので話半分でしか聞いていなかったが、確かユーリカは魔王すらも恐れると言う大魔法使いだったはず。

 だがまず何よりもおかしいのはその容姿の幼さである。

 リュンと瓜二つ、もしくはユーリカと名乗る少女の方が幼く見える。とても孫を持つようなおばあちゃんには見えない。


「そこにいるリュンは正真正銘私の孫ですよ」


「ちょっと待って色々おかしいから。ユーリカさんだっけ?今いくつなんですか?」


「そんな、出会って間もない殿方に年齢を教えるなんて……」


「仮にあんたがリュンのおばあちゃんだとしたら七十か八十ですよね?そんな年で年齢もクソもないですよね?その反応は色々キツくありませんか?」


「うふふ、私はこれでもまだピチピチの十八歳ですよ(はーと)」


「いやいやいやいやおかしいでしょ普通に。サッバ読むどころかマグッロ読むぐらいいってるんじゃないのそれ」


「勇者様は上手いことを言いますね。マグッロだけに」


 どうやら年齢については本気で答えてくれる気はないらしかった。


「大体、本当にあんたは大魔法使いユーリカなのか?」


「確かにその疑問はもっともですね。では証拠をお見せしましょう」


 そう言ってユーリカが杖を振ると、さっきと同じような眩い光に包まれる。

 そして次に姿を現したのはさっき倒したはずのドラゴンであった。


 開いた口が塞がらなくなる。


「まじか……」


 ドラゴンに変身できる魔法使いが普通じゃないことぐらい素人の俺でもわかる。てかそんなことできる魔法使いがワンサカいたら多分普通の人間はもう絶滅してるだろう。


「これで信用していただけましたか?」


 再び人間の姿に戻ったユーリカの言葉に首を振る事はできなかった。


「そしたらどうして俺たちを襲ってきたんだ」


「それについては申し訳ありませんでした。今代の勇者様の力を見てみたくなった私の単なる気まぐれです」


「気まぐれで殺されそうになったんじゃまったく笑えないんだが」


「でも、事実勇者様はドラゴンである私を退けた。それも、たった一本のニンジーンだけで」


「…………」


 まるでわかっていたことだからとでも言いたげなユーリカの言葉に二の句が告げなくなる。


「あれはとてつもない力でした。堅牢な鱗を突き破っただけでなく、身体中の器官という器官を縦横無尽に破壊し尽くしたあと、とどめと言わんばかりに心臓を……」


「あの、もういいです」


 どうやらニンジーンドリルは俺が想像していた何倍もやばい代物だったらしい。

 それ以上は恐ろしくなって俺もニンジーン恐怖症になりそうだった。現にリュンは白目を向きそうになっている。見せただけで卒倒しそうだ。


「それじゃあ俺の村の畑を襲ったのは?」


 正直これが一番俺の中で大きな問題だ。

 なんの理由もなしにただの暇つぶしで襲ったとかだったら許すことはできない。


 ユーリカは少しだけ考えるような仕草をしてから答えた。


「勇者様に、この森へ足を運んでもらうためです」


「森へ?どうして」


「あなたに魔王を倒すための力をお渡ししなければならないからです」


 そう口にするユーリカの顔は、さっきまでの温和な物ではなくなっていた。

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