第十一話 ゴンボーウが穿つもの
「逃げやしょう兄貴。ここにいたんじゃ巻き込まれちまう」
あれが本当に爆発するのであれば、間違いなくここら一帯は焼け野原になるだろう。延焼しようものならカブの村まで燃え広がる可能性だってある。
だとすれば放ってはおけない。みんなで作り上げてきた村を、こんなことで失うわけにはいかない。
「駄目だ。あの魔女を止める」
「そうですかい。兄貴がそう言うなら、俺が逃げるわけにはいかねぇ。お供しやすぜ!」
だが、脳筋が二人いたところでどうにもならないのが現実。
遠距離の攻撃ができればいいのだが、俺の手にあるのはダイコーン(乾)のみ。投げたところで風に阻まれるのがオチだろう。
そんなことに使うなら漬け込んでタクアーンにして食べるべきだ。
ダイコーンソードに出来ればまた話は別だが、あの生命力に溢れた力をこのダイコーンミイラが放てるとは思えない。
もっと鋭い槍のように尖ったものであれば、この荒れ狂う風の中でもまっすぐに飛ばすことができるかもしれないが……。
そこでふと、あるものが頭に浮かんだ。
「おいトロール。お前、鼻はきくほうか?」
「鼻ですかい?まぁ、森生まれ森育ちの森ボーイですからねぇ、大抵のものは嗅ぎ分けられると思いますよ」
「なら、ゴンボーウを探してくれ」
食物繊維たっぷりで、輪切りにして煮物にすると超絶うまい細長い野菜だ。
「ゴンボーウですかい。それなら確かあの辺にっと……」
さっと森の中へ消えたかと思うと、すぐに戻ってくる。その手には、たしかにゴンボーウが握られていた。さすがに森ボーイを自称するくらいのことはあるらしい。
「でもどうするんですかい?そんなへなへなじゃ、投げたところで飛んでいっちまいそうなもんですけど」
「何もしないよりはマシだ。それに……」
俺には野菜武器化の能力がある。
ダイコーンがダイコーンソードになったように、ゴンボーウも何かしらの武器になるかも知れない。
ゴンボーウを手に持ち、魔女を見据える。
魔法の発生源はあの杖の先についている宝玉だろう。自己主張が激しいので間違いない。
だが、それから放たれる光は目を開けていられないほどに輝きを増していた。とても狙いなんて付けられない。
「兄貴、俺の腕に乗ってくだせぇ!」
「なんだ、こんな時に」
「俺の目にはまだ魔女の宝玉がうっすらと見えてるんでさぁ」
「お前の腕に乗って、指差した方向に投げろってことか」
トロールと頷き合うと、すぐにその腕に飛び乗る。
狙いを定めるように揺れていたトロールの指が、ある一点を指してピタリと止まった。
「兄貴!あそこだ!」
トロールのその合図と共に、俺はゴンボーウを力一杯投擲した。
俺の手を離れた瞬間、ゴンボーウが青白い光に包まれ、細長い矢となって風を切り裂きながら一直線に飛んでいく。
まじか。完全に投げやりな作戦だっただけに驚きを禁じ得ない。槍投げだけに。投げたのは槍じゃなくてゴンボーウだが。
シュピン、と何かを貫くような音がしたかと思えば、魔女を包んでいた眩い光が一瞬にして霧散する。
その後に残っていたのは、膝をついて茫然としたままの魔女と、魔女の持っている杖……その先端にある宝玉に、半ばほどまで突き刺さっているゴンボーウ。
元々細長いゴンボーウだが、宝玉を貫いているそれは今や針のように鋭い槍へと形状を変えていた。名付けるならゴンボーウスピアといったところか。
ともあれ魔女の暴走は止まった。
動かないでいる魔女の元へと近づいていく。
「今度こそお前の負……」
「うわあああああああああああああああああああああああああんっ!」
俺が声をかけた途端、魔女は目からぽろぽろと涙を流しながら大泣きを始めた。子供かよ。
「ふじゃけんなばかやろぉ!野菜ごときに……農民ごときにこのあたしが負けるはずないんじゃい!」
「いや現に負けてんだろうが潔く認めろよ」
「やだやだやだ!」
「兄貴、この馬鹿話が通じやせんぜ」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんじゃこの馬鹿阿呆ドジマヌケ!」
「じゃあてめぇも馬鹿じゃねえかこのアホんだらが!」
「トロールの分際であたしに話しかけるなんて数百億万億千光年早いのよ!」
何この空間。いるだけで知能指数下がりそうなんだけど。今時の子供でもこんな会話しねぇよ。
「もういいやめろ。聞いてるこっちが馬鹿になりそうだ」
「はい馬鹿って言った!あんたも馬ひっ!?」
ついうっかり手に持っていたダイコーン(乾)を、その脳味噌の入っていなさそうな小さな頭に叩きつけていた。てへ。
気絶した魔女はその場にぱたりと倒れ込む。
「女子供にも容赦しない兄貴……痺れるぜぇ……」
「うるさい。いいからそいつを担げ」
「へい。でも、どうするんですかい?」
魔女を担ぎながら聞いてくるトロールに、俺は坦々と言葉を返した。
「村に連れ帰ってみんなに土下座させる」
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