第二話 追放
城下を出てすぐ騎士アーレンが話しかけてきた。
「そういえば勇者様はどんな特技を授かったんです?」
「特技?」
「勇者に選ばれた人間には女神ディアナ様から特技を与えられるんですよ。ちなみに先代はどんな剣でも握れば聖剣に変えてしまうというものでした」
そもそも俺は敵と戦ったこともなければ剣を握ったこともない。
むしろ桑や鎌を使ったほうがまともに戦えるんじゃないかってレベル。盾よりも鍋の蓋とかの方が性にあってると思う。
「ではフランシスカに鑑定させましょう」
清楚系僧侶フランシスカがにこやかに会釈して俺の手を取る。どうやら鑑定のスキルを使えるらしい。
「こ、これは……!」
フランシスカの目が見開く。パーティメンバー全員の注目が集まる。
「『野菜武器化』ですね」
「…………野菜武器化?」
「どんなお野菜でも武器に変えられてしまうという特殊能力……のようです」
言ってるフランシスカも釈然としない面持ちだった。
聞いてるこっちも釈然としねぇよ。名前からして弱そうなんだけど。俺が農民だったから?丹精こめて作った野菜で戦えって事?食べ物で戦うとかくそ罰当たりじゃねぇか。農民馬鹿にしてんのか。
「と、ともかく出発しましょう。ディアナ様の授けた能力ですから、きっと何か特別な力があるのかもしれません」
―――
「ファイヤーボール!」
魔法使いリリーの魔法がゴブリンを焼く。
隙が出来たところに騎士アーレンが切り込み、アーレンの死角から現れたオークを弓使いユゥリィの放った矢が射抜いた。
怪力戦士ゴブリーが雄たけびを上げながら岩を投げつけゴブリン数匹を纏めて下敷きにし、遠くから僧侶フランシスカが能力上昇の魔法を使いバックアップする。
攻守ともに見事に連携の取れた熟練パーティ。さすがに魔王を倒しに行くということだけはある。
勇者マサヨシ、つまり俺はといえば、『野菜武器化』の能力を確かめるためにタマネッギ(皮がオレンジ色、中身が白色で切ると涙が出る)を投げたりトメト(赤色で瑞々しく栄養豊富)を投げたりしてみたが、ただ魔物が喜ぶだけだった。食べれば能力向上かとも思ったがただ美味いだけだった。
結局『野菜武器化』の力がどういうものなのかはわからなかった。
戦闘を終え、パーティメンバーが集まる。
魔物を退治し健闘を称えあうのかと思われたが、なぜかみんな神妙な面持ちをしていた。
「どうした?」
俺の問いに騎士アーレンが答える。
「勇者様。折り入って一つお願いが」
「お願い?なんだ?」
「勇者様は城下に残っていただきたいのです」
「はぁ……は?残る?どういうこと?」
「さっきの戦闘を見る限り、この先の戦いで勇者様が使い物になるとは思えません。我々だけでやっていきたいと思います」
「はっきり言ったなお前。一回戦っただけじゃまだわからないだろうが」
「いえ、我々が勇者に求めるのはどんな敵でも倒すことの出来る圧倒的な特殊能力。勇者様の『野菜武器化』ははっきり言ってクソ能力です」
その場にいた全員が頷いた。
「クソ能力とか言われた方の気持ち考えろてめぇ。でもこの先勇者必要になるでしょ?伝説の武器とか防具とか、俺がいないと受け取れないでしょ?」
「私が勇者様の代わりを勤めますので問題ありません」
「大ありだろうが。勇者のいない勇者パーティって、それただのパーティだからね?勇者騙ったら犯罪だからねそれ?」
この中で一番優しそうなフランシスカを見る。
「これはメンバー全員の総意なのか?」
フランシスカは答えない。にっこりと聖母のような微笑を浮かべているだけだった。
戦士ゴブリーも魔法使いリリーも弓使いユゥリィもみんなそっぽを向いて目をあわせようとしてくれない。
「皆と話し合って決めた総意です」
「皆の中に俺が入ってねぇじゃねぇか。それ総意って言える?」
だが俺を置いていくことは皆の中では満場一致で決まっていることのようだった。
五対一でごねたところでどうにかなるわけもない。
「教会にはしっかりやっていると報告を入れておきますのでご安心を。勇者様は田舎に帰って野菜でも作っていてください。必ず魔王を倒し、世界を平和にしてみせます」
勇者っぽいことをのたまった騎士アーレンの言葉を最後に、皆は立ち尽くす俺の前から去っていった。
こうして勇者であるにも関わらず、俺は勇者パーティを追い出された。
なんでやねん。
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