第4話 転生者~コーティカルテにて~
顔に傷のあるダークエルフの少女を見た。
奴隷商の男が言うには「他のエルフをわからせるためにやった」という。
ここではダークエルフなんて珍しいものではない。
少し扱いの難しい家畜。
作れば売れるとわかっている商品として認識されている。
奴隷商の男は、自分は一度に十数人のダークエルフを買い付け、そのうちの一人を傷モノにするのだと笑顔で話した。
エルフと違い一度心の折れたダークエルフ達は皆、保身を一番に考えるようになると彼はつづけた。
従順なダークエルフは『あいつ』のようにはならないようにと。
また、傷をつけられたエルフは『もうこれ以上ひどくはならないように』と。
ここに来る前、どれほど浅ましい考えでこの世界を希望していたかを思い知った。
だが……。
どれだけゲスな考えを抱いてここに来ようと。
今、ここで……自分にできることがある。
己の愚かさを恥じながら……自らを殺したいと思う一方で、僕は金の入った袋を奴隷商の男に突き出した。
数分後。
ボロ布を纏っていた顔に傷のあるダークエルフの少女は、小綺麗な服に袖を通して現れた。
まるで商品に包装をしたようだと、そう思った自分を呪う。
彼女は首についた鎖を引かれながら、今までに纏ったことがないのだろう『ちゃんとした』服に困惑しつつ、自分が『誰』に買われたのかを必死に探ろうとしている。
彼女の鎖を僕に手渡す直前……奴隷商の男は「顔に傷がある分、あっちは未開通ですよ」とにやりと笑ってみせた。
宿に着くまでの間、僕は必ずこの子を幸せにしようと考えを巡らせた。
優しくしようと、心に決めていた。
だが……。
『一度心の折れたダークエルフ達は皆、保身を一番に考えるようになる』
奴隷商の言葉が脳裏を過る。
そして……彼女もまた、例外ではなかった。
夜。
脱ぎ方を知らなかったのか、あえてなのか。
奴隷商に着せられた服をはだけさせ、顔の傷を布で巻いて隠した彼女にせまられた。
なぜ自分が買われたのかを理解している。
彼女はそう言いたげだった。
「痛いのは……いや、です。けど……一度済ませてしまえば、後はらくだと聞いたから……」
優しくすると決めた矢先……自分がクズだったのだと理解する。
僕は彼女の服を乱暴に脱がせ、肌を重ね…………次に目覚めた時、少女は傍にいなかった。
『逃げたのだ』と考えた直後、妙な違和感を抱く。
それから、自分が死んで戻って来たのだと気付くのに時間はかからなかった。
なぜ死んだのかを……僕は、覚えている。
宿を出てすぐ、自然と足が彼女のいる店へと向いた。
この世界を望んだこと、この世界に来たこと……そして。
どれも間違いだらけだ。
でも、それでも……。
顔に傷のあるダークエルフの少女を見た。
金の入った袋を奴隷商の男に渡し、数分後、小綺麗な服に袖を通して現れる彼女を待つ。
この先、何度彼女に喉を切り裂かれることになったとしても……。
たとえ僕が、彼女を幸せにできないのだとしても……。
僕と出会わなければ、彼女がどれほどひどい目に遭ってしまうのかを知ってしまったから。
――――――――――
エルフ狂いの転生者
転生時スキル
〇毒耐性C+
〇死後蘇生S+
〇条件付き未来予知B+(最初に定めたダークエルフの女性に限って死を予見する)
〇所持金+500シリカ(日本円で1000万円相当)
これから転生する方へ一言
ひどい世界は数多あり、僕らに救えるものは少ないけれど。それでも最悪を防ぐことはできます。どうか優しい世界で、良き転生者ライフを。
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