『郵便宇宙船ノセタ・ラ・ダマス号の危機』

やましん(テンパー)

『郵便宇宙船ノセタ・ラ・ダマス号の危機』

 【これは、近未来妄想フィクションであります。】

 

                  🛸


 『小型郵便宇宙船ノセタ・ラ・ダマス』の乗員は、ぼく、一名である。


 といっても、たいして、やることはない。


 コンピューターが、時々、どこどこのモジュールが痒くてたまらないから、かいてくれ、と、言うくらいである。


 もちろん、これは、比喩だけれど。


 だから、特に、専門家が乗船する理由はない。


 『普通郵便宇宙船』は、貴重品は運ばないから、『宙賊』に襲われることも、めったにはない。


 それが、襲われてしまったのである。


 ばかな、『宙賊』がいたものだ。


 ぼくは、抵抗なんかしない。


 マニュアルでも、そうなっている。


 宇宙郵便取り扱いにも、ちゃんと、そうなっているのだ。


 宇宙海賊などに襲われたら、一切、郵便物の保証はしない。


 『普通郵便宇宙船』は、ひ弱なのだ。


 そのかわり、料金は格安である。


 三人組の宙賊は、なにかの、狙いがあったのだろう。


 箱の中のほとんどの郵便物を持ち逃げして、さっさと、そこから立ち去ろうとしたのである。


 しかし、去り際に、海賊船の操作を誤ったのか、意図的だったのか、郵便宇宙船に、追突したか、やんわりと、攻撃したか、してしまった。


 ≪がっくん≫、と衝撃が来た。


 『やれやれ、どっか、壊れたかなあ。』


 現在地は、火星と木星の間で、いわゆる、小惑星帯のまんなかあたりである。


 ぼくの目的地は、土星の衛星『タイタン』居住区である。


 地球は、当面、『第三次月火戦争』に、忙しい。


 月移住地と火星移住地が、独立したくて、再三紛争を起こす。


 今回は、月が火星側に付いたことから、大きな紛争になった。


 月は、これまでは地球側に組していたのに、である。


 原因は、明らかに、独裁者、ゲアハ地球大統領にある。


 彼の強権政治が、月の反乱を招いたのだ。


 ぼくは、『地球郵便公社』の、末端社員である。


 これ以上の下は、ないあたりにいる。


 しかし、ぼくのような、体に障害がある人間を雇ってくれてるところは、やはり助かることは、事実なのだ。


 ゲアハ大統領は、競争相手には冷酷だが、末端民や病人には、意外と優しいという特徴を持っている。


 おかげで、政権を維持できるのだが。


 ぼくが乗船する『普通郵便宇宙船』は、その、末端の作業労働者や家族住民には、大切な仕事をしているのだが、政府関係とか、企業関係の重要文書類などは運ばない。


 それらは、『宇宙エクスプレス郵便宇宙船』の役目である。


 強靭な船体をもち、攻撃装備もあるし、兵士も乗っている。


 当然、やや、お高いが。


 ま、お陰さまで、『普通郵便宇宙船』は、まず、誰からも相手にされない。


 さそく、救難信号を出したのだが、なぜか、まったく、返事が来ない。


 今回は、出発後に、実は、地球も火星も月も、滅亡状態に、瀕していたんだったとは、知らなかったけれども。


   

    **********   **********

  

 

 「ありゃあ~~~~これはこまった。」


  ぼくは、やっと気が付いたのである。


  宇宙船の、水系統が破損している。

  

 「こりゃ、まいったなあ。トイレだめ。調理器もだめ。まあ、食事は緊急用宇宙食があるからなんとかなるし、飲用水も、いくらかパックのがあるか。でも、1週間も、持たないかな。タイタンまでは、ぎりですなあ。でも、最悪は、小型医療透析装置だな。これは、大ピンチです。これじゃあ、あと三日と生きられないかな。緊急用で、一回使えたら、ぎりぎり、かなあ。ちょと、むりそうか。」


 ぼくは、覚悟しました。


 こいつが稼働しないと、僕の体は機能しなくなります。


 タイタンまで、生きてるかどうか、非常に、きわどいところです。


 と、『郵便箱』の中に残された、たったひとつの郵便物がありました。


 なんと、ぼく当てなのです。


 差出人は、『宇宙海賊、マオ・ゾクの楽しい仲間たち』


 さっきの、三人組らしいです。


 【マオ・ゾク】は、最近名高い宇宙海賊です。


『さきほどは、お世話になりました。タイタンの革命リーダーなどに宛てた手紙が、そこにあったのですが、実は、タイタンで新型宇宙インフルエンザが急激に流行し出したので、回収に伺いました。発病すると手に負えません。ワクチンがなかったので、間もなく、全員病死するでしょう。地球と月と火星は、核兵器や『神の杖』などで、ほぼ、自滅した様ですが、ゲアハ一派は、まだシェルターで悪あがきしています。我々は、『金星移住地』と、協力関係となりました。今は、まだ、反逆者ですが、まもなく、立場は逆転するでしょう。お礼に、新型宇宙インフル用の予防注射と、宇宙船の航路変更データ・チップを同封しました。注射はしといた方がいいですよ。なお、そこの透析装置は危ないです。製造年月日から見て、残りの医療用お水ぱっくが、インフル・ウイルスで汚染されている可能性がありますよ。ぶっ壊しておきました。わが、ドクター特製のお薬も三個同封しました。一個で、二日は生きられますよ。新しい、データで飛行したら、4日以内に、われわれと、ランデブーできます。新入隊員として歓迎します。まあ、タイタンで、何とか生き延びる手もあるでしょうけれどね。ただし、救援は、当分、来ないと思いますが。まずは、お礼まで。』



 むむむむ。


 ぼくは、下っ端ですが、誇り高き、郵便配達員です。


 裏切り行為や、汚職は、したくない。


 しかし、役に立たない宇宙船を持って、本当にインフルに侵されたタイタンに行くのか?


 いやいや、これは、きっと、がせねたでしょうか。


 相手は、宇宙海賊なのです。


 信用なりません。


 しかし、いくら通信を試みても、まったく、当局からの応答はありませんでした。


 透析装置は、やはり使えないようです。


 名誉の殉死をするか、あやふやな、海賊に寝返るか。


 どうしようかしら?


 答えは、ひとつしかないとは、思います。




  ********** 🚀 **********   おしまい

  




























 




 





 


 


 




 


 

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