第43話-大惨事②
「では、我々は城に戻るが、後日連絡するから」
「アサも後片付け大変だろうけれど、がんばって」
アサヒナはこの後「女王誘拐事件」と「教会真っ二つ事件」の後片付けに奔走すると笑いながら話す。
(たぶん文官さんたちが大変なことになるんだろうな)
「ヨル、また後日ゆっくりお話ししましょう」
「フレイアも気をつけてね、またお茶でも」
『フレイアちゃんもアサちゃんも元気でな』
サタナキアも女四人に混じって話をしていたのか、二人と仲良さそうに言葉を交わしている。
フレイアは国としてティエラ教会との付き合いを改めて見直すため、外交に追われることになると苦笑いしていた。
――――――――――――――――――――
気絶から復活したヨルは昼過ぎまで三人に介抱されつつ色々と話しをした結果、なんとかシラフの状態でも平気で話しができる程度までは打ち解けることができた。
この数時間で色々と話をしていると懐かしい感じがしたのは、昨夜に四人で相当打ち解けて女子会をしていたからだろう。
みんな心の内に溜め込んでいた鬱憤を吐き出しては楽しそうに飲んでいたとアサがみんなに言っていた。
そして昨夜の積もる話の続きは後日お互いが落ち着いてからと約束をし、フレイヤとアサは城に戻っていったのだった。
この部屋で起こった
――――――――――――――――――――
「ヴァーラルはしばらくこの部屋でゆっくりしてていいからね」
「ありがとう、ヨル!」
満面の笑みでヴァーラルはヨルの手を握る。しかしヨルとしても彼女に聞きたいことがあった。
「それより色々聞いていい?」
ヨルはお茶を二人分出して、サタナキアも隣に座らせヴァーラルもヨルの向かいに座る。
にゃー
忘れかけていた白猫をヨルは両手で抱えて自分の頭に乗せた。
「ヴァーラルは教会で囚われてたって言ってたけど、なぜ?」
「それは私の魔力のためかと思います」
「というと?」
「私は他の人より魔力が多いらしく――教会には魔力を貯めるための宝玉があるのですが、それに魔力を注ぐため毎日祈りを捧げておりました」
魔力を貯める宝玉というのをヨルは初めて耳にしたが、気になるのは何故そんなことをしているのかである。
「理由まではわかりませんが、各国の大きな街にあるティエラ教会では、魔力の高いものを集め半ば無理やりに
ヨルが知りうる限りでは、大量の魔力が必要になるのは『大規模な魔法の発現』であり、その目的は『
(アルの話だと、教会は勇者を探しているって言っていたけれど……あ、そうだ)
「ねぇヴァーラル、アルっていう人知らない?」
「アルフォルズ様のことでしょうか?」
「そうそう、それそれ」
「アルフォルズ様は数日前にお越しになり、聖騎士隊長として聖遺物の輸送で北のシンドリへ向かわれました」
「聖遺物……って聖騎士隊?」
「はい、アルフォルズ様は教会聖騎士隊の隊長様です」
「聖騎士……ふふっ……隊長様……ふふふっっ」
「ヨル?」
「あはははっ、ごめんごめん、全然イメージと違ってたから――あはははっ」
「もうヨルったら……。でもアルフォルズ様の様子がおかしかったの。いつもは優しい方でしたが、先日お会いした時は表情もなく、私のことも判っていなかったような……」
「……」
やはりアルは自分の意思でガラムを離れたのではないのだとヨル確信する。
「ヨルは、その、アルフォルズ様のことを……」
「へ? ないない、ただの知り合いよ!」
「でもアルフォルズ様を探されるために王都まで来たと言っていましたし」
「んー話したかもしれないけれど、それはついでだから。別れ際の様子が変だったから、困ったことに巻き込まれたんだったら手を貸そうかなって思った程度よ」
ヨルはあっけらかんとした表情でアルとはただの友達だと伝えると、ヴァーラルは安心したような表情を見せる。
「とりあえず、ヴァーラルはしばらく街には出れないだろうし、私が色々情報集めてくるよ」
「情報……?」
「気になるんでしょ?アルのこと」
「そ、そんな」
ヴァーラルは両手を頬に当て俯くが、その頬は真っ赤に染まっていた。
(なにこの子、初々しい!)
とはいうものの、ヨルも今日は心のダメージが大きすぎたため、二人は部屋でお喋りをしながら過ごすだけで終わってしまったのだった。
――――――――――――――――――――
「ヨルとアサは名前が正反対みたいで面白いですよね」
たしかに言われてみればそうだ。
まるでセットのような感じになってしまっている。
「……羨ましい」
ヴァーラルは湯船に顔を半分沈めて拗ねたように言う。
ヨルは洗い場で体を洗いながらヴァーラルの方をチラリと見る。
豊満なお肉が二つ湯船にふよふよと浮いている。
(……浮くんだ)
ヨルはうつむいて無言で身体を洗い、尻尾も念入りに洗う。
「ヨル、そのお願いがあるんだけれど」
「んー? なに?」
「尻尾触ってみたいな……なんて」
「ん? ほい」
ヨルは太ももをタオルで洗いながら片手で尻尾を掴み、背後からにじり寄っていたヴァーラルのほうに差し出す。
「――うにゃ!?」
突然遠慮なく両手で握られ、びっくりしてよく判らない声を出すヨル。
それを無視してヴァーラルは尻尾を両手で包み、根本から先まで滑らせる。
「んあっ――! ちょ、もう少し優しく!」
「ご、ごめんなさい。痛かった?」
「いや、痛くはないけれど……その神経が通っているから敏感なのよ」
神経とかの意味がわかってないであろう顔でヴァーラルは少し優しく握り直し、根本と先のほうをふにふに揉み出す。
「だっ、だから、そう言う触り方はっ……こそばゆいか……らっ!」
ヨルは我慢できなくなったようで尻尾を掴み、前に持ってくる。
「ああっ、もう少し」
「ダメ」
「うぅ……」
そのまま石鹸を流し、二人して湯船に浸かる。
「ねぇ、私の友達にヴェルって子が居るんだけどさ」
ヨルはお湯を両手で掬い、また流すを繰り返しながらヴァーラルに言う。
「ヴァーラルのこともヴァルって呼んでいい?」
「――!!」
先ほどアサの愛称で羨ましいと言っていたので、知り合いとよく似た愛称で呼ぶとヴァーラルは両眼を少し湿らせ「お願いします!」と今日一番の笑顔を見せた。
「じゃあヴァル、改めてよろしくね」
「ありがとう、ヨル!」
そのままヨルに飛びついたヴァルは二人で仲良く湯船に沈んだ。
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