第27話-ちゃんと拳から出た
『アネさんアネさん! どうしてあっしは簀巻きで吊り下げられているんですか!?』
――ぷーちゃんが目を覚ましちゃった。
私はそんなことを考えながら周りを見渡す。
ここはヴェルの店から繋がる空間だそうで、かなりの広さがある真っ白い部屋だった。普段から魔道具の起動実験とかに使っているらしい。
「じゃ、やってみよっか。ターゲットはアレで」
ぷーちゃんは、動けない自分のことを指差すヴェルに気づいてしまったのか、縛られ吊るされた状態で暴れだす。
『ちょっ、せめて何をするのか教えてくだせぇ!』
悲壮な表情は死刑執行を待つ囚人みたいに見える。
「ちょっとヨルちゃんの攻撃を受けてちょうだい☆ 嬉しいでしょ?」
笑顔で死ねと言っているようなものだけど、ぷーちゃんはピタリと止まって震え出した。
『おっ、おっ、お願いしやす! アネさんの力になれるなら何でもどうぞ! 消滅しても悔いはありやせん!』
よし、言質は取った。全力で行こう――。
――――――――――――――――――――
ヴェルが提案したのは、こうだった。
まず、体内で魔法を発現させる。
そしてそのままキープ。その状態で敵に触れた瞬間に発動位置を肌の表面に指定してで発動する。
要は触れた相手を感電させる
(雷魔法で
「ちゃんと
と、ヴェルに言われて気付く。
魔法の使い方も変化したのか廃れたのか、魔法を発現させる呪文を使わず、発動させるためのキーワードで使う人ばっかりだ。
イメージがあれば発動するけれど、威力は段違いになるのよね。
でも、むしろあれが正しい使い方だと思っている節があるよね……。あの白ローブの男も、カリスもそうだった。村では教会のおばちゃんからは、ちゃんと昔と同じ内容を教えてもらっていたので、失われた魔法というわけでもないだろうけど。
――――――――――――――――――――
私は拳を握り、目を閉じてから何度やっても使えなかった魔法を使う。
魔力は体内から絞り出すイメージじゃなくて、ぷーちゃんから集めるイメージ……。
「発現位置は私の体内――『
目を閉じ、いつもと同じように魔法を発現させるための呪文を紡ぐ。修行中はこの次の発動段階で霧散するか、爆発するかだった。
しかし発現先を体内に指定した瞬間、バリバリと周りに雷が走り始める。身体中に雷撃が迸り、一瞬だけ気が遠くなりかける。
「んあっ…! こ、これを腕に――!? こっ、これ本当に大丈夫なんでしょうね!?」
「魔法抵抗も上げておいたし大丈夫よきっと」
他人事のように言うヴェルだが、しっかりと回復の用意をしている様子だった。
私はそのまま呼吸を落ち着かせ、体内に発言した魔法を拳に移動するイメージを作り出すと、体中にまとわりついていたパリパリとした雷が腕に集まり出し、徐々に腕が青紫に輝きだした。
「ほっ、本当に安定した」
「うん、ちょうど今、その魔力とヨルちゃんの神力が拮抗してるね! じゃ、いってみよー☆」
なるほど、今までのやり方で例えるなら、魔法を発現させるのに使った魔力量と同じ量のチカラをもう一度体内から出すイメージね。
この体内から出している魔力だと思っていたのが神力だったんだ。
魔法が霧散しないうちに狙いを定め一気に跳躍する。空中でバランスを取りながらぷーちゃんを射程に収め、その拳が身体に触れた瞬間にキーワードで発動させる。
「ふっ――『
その瞬間「バリィィッ」という音が聞こえ、ぷーちゃんに触れた拳の先から紫電が一条まっすぐに飛び出た。ぷーちゃんが吹き飛び、振り子のように戻ってくる。
『あばばばっっ――』
「おー! 雷槍が使えたー! やっったーっ!」
嬉しくてつい、腹に大きな焼け跡を残し白目を向いているぷーちゃんの事を忘れてはしゃいでしまった。
『
ヴェルがパチンと指を鳴らしながら紡いだ神言で即座に神法が発動し、ぷーちゃんの怪我は何事もなかったように元に戻る。
『アっ、アネさん痺れやした、死ぬ寸前でしたが!』
「んふふー。ぷーちゃんもありがとうー」
『――!!』
ついいつもと違う口調になっちゃったけど、何だか喜んでるので良しとしよう。
「じゃ、次本番ね☆」
『!?』
――――――――――――――――――――
ヴェルにより強制的に元の姿へと戻されたぷーちゃんことサタナキアと対峙するヨル。その風貌と筋肉質の体、染み出す凶悪な魔力はまさに大悪魔と呼ばれるそれだった。
「いーい? 障壁は最大にしなさい」
『へい……』
ヴェルの楽しそうな口調に対し、巨躯に似合わない不安そうな返事をするサタナキア。
「じゃ雷魔法の上級レベル、発現から発動までの魔力は全てぷーちゃんから吸い上げるイメージで」
簡単にいうヴェルだが上級レベルの魔法の行使となると、本来は魔法陣の補助を使いながら発動させる魔法であり、その場で呪文を紡ぐだけですぐに使えるようなものでは無い。
――しかし。
『
あっさりと呪文を紡ぎ切るヨル。
頭上から閃光のような雷が降り注ぎ、ヨルの周囲に雷の波動が行き場を求めてスパークを激しく渦巻き始める。
傍から見ると、ヨルの周りに雷が落ち続けているように見えた。
『――ひっ』
「ほら、もっと神力あげないとー飲まれて消滅しちゃうわよ☆」
「そっ!――んなこと……言ったって…………きっつ」
「ほら、呼吸整えてーお腹に力いれてー」
のんびりとした口調で声をかけるヴェルだが、ヨルは発現させた魔法が爆発拡散してしまわないよう、体内を絶えず循環させ続けるだけで精一杯だった。
その顔は苦痛に歪み、額から冷や汗が溢れ出す。髪も、毛も逆立ち足がガクガクと震えている。
「あぁぁぁっっっ、やばいやばい! これ、もーむりぃー!!」
「目を閉じてーお兄ちゃんの顔思い出してー殴るんでしょ」
「――っ!!」
その瞬間、ヨルは目をカッと開くと今にも空間全体に溢れそうだった雷の魔力が一気にその腕に向かって収束を始めた。
「で、できた」
「はい、じゃあ、あの悪魔に向かってやってみよー☆」
『ひっ、まっ、待ってくだせぇ!そいつぁやばいですって』
サタナキアは必死に抵抗するがいつの間にかその足元には光る鎖のようなものが巻きついていた。
「
『ぎゃっ……』
その巨躯に左右上下から更に鎖が伸びて拘束し、サタナキアは生命活動以外の行動ができなくなる。
「『
さらにヨルは装備品の魔法を上乗せし、魔法を発動させたときの勢いに飛ばされないようにし、ギロリとターゲットに視線を向ける。
なお、サタナキアは言葉まで封じられていたが、それを知らないヨルは問題ないものだと受け取り、右手を下げ左手を突き出し構える。
サタナキアが凝視していたヨルの身体が瞬きをした瞬間にかき消え、すぐ顔の目の前に出現する。
そしてその拳を大砲のようなスピードで巨躯に向かって撃ち出した。
「『
甲高く響いていたパチパチという音を置き去りにして打ち出された拳を伝わった雷が、真っ白い部屋をさらに白く染め上げた。
離れたところで見ていたヴェルの元に衝撃だけが伝わり、遅れて大地が悲鳴を上げるような重低音が聞こえてくる。
あたりには青白いスパークと土埃が満ちていてヨルの姿もサタナキアの姿も捉えることは出来なかった。
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