ネコミミ少女に転生したら殴り特化でした

八万岬 海

0章 ― さようなら

第0話-終わりの日

(わたし……何をするんだったっけ……)


 深夜二時


 彼女は何かに操られているようにフラフラとした足取りで、睡眠薬を煽る。


 おぼつかなくなってきた手つきでスーツを脱ぎ、下着姿になると浴槽に浸かる。

 自分の身体が勝手に動いていると頭でわかってしまうが、止めることができない。


(………)


 そして手首に当てた冷たいものを滑らせる。


 それで終わり。




――――――――――――――――――――




『ヌシは八回の輪廻だぞ、なにを考えておる』




身体が動かないため、瞳だけを動かして室内を見回すと、落下中の水滴が自分の脚に当たる直前で止まっているのが目に入る。


(あぁ……夢か……)


そんな事を思いながら、既に動かないまぶたを閉じようとするが、再びあの声が響く。




『……ヌシはこれ以上、人間に転生させるのは無駄だと判断する。このまま魂を虚無に落とす』


(虚無……?)



『虚無獄とは、魂がすり減り切るまで滅び続けるのじゃ』


その声を最後に、辺りに聞こえるのは換気扇の音と、時折滴り落ちる水滴の音だけになった。



突如ふっと浮遊感を感じ、自分の中のものがごっそり無くなった感覚が襲ってくる。

そうして次第に真っ黒いヘドロのような穴に落下し始める感覚が全身を包んだのだった。



――――――――――――――――――――



「あぁぁぁぁぁっっ……あああああ――!!」



味わったことのない激痛が身体中をむしばむ。

まるで身体の中から何かが肉を食いちぎりながら表に出てこようとしているような感覚――。


頭の先から足の先、身体の表面から内臓の奥まで、ありとあらゆる部分が燃えるように熱く、凍るように冷たい。


気を失いそうになっても、意識が残り、

気が触れそうになっても、正気に戻る。


神からも見放された魂の最終処理場。

そこが彼女の最後の場所だった。



 ………………


 ………


 …

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