ボックス・ストーリー

四隅四角

第1話 静かな文学部(side m)

 静かだ。

 いや、静かなのは、まぁ文学部の特権と言えよう。

 しかしだ、部員がいてもなお、さらには課題文学の評論の日ときて、このような沈黙はいかがなものと思う。

 

 机に置かれた本を眺めるふりをして、ちらりと対面の彼女に目をやる。

 静かで、凛として、美しい。

 ただ、マネキンのように無表情で何も話さない。正直言って、僕は彼女が少し苦手だ。

 いや、でも僕自身も過剰なコミュニティは苦手だ。疲れるし、気を遣うし。なんなら、普通のコミュニティすらも苦手だ。

 だから、本来は沈黙と言うのはありがたいことだし、彼女のことを苦手になる必要性もない。


 なのに、なぜ僕は彼女が苦手なのだろうか。

 それが分からない。物語の心情を読み取るのは非常に簡単なことなのに、僕は自身の心情も彼女の心情もうまく読み取れないのだ。


「あ、あの」

 

 僕は言葉にして話してみる。

 

「君は、僕のことが苦手だったりする?」


 その返答は僕にとっては恐ろしく、見ることに一種の恐怖を感じるはずだったのだが、結果はそうみたいではなく、彼女は首を横に振った。

 僕はなぜか、安堵の息を吐く。


「そ、そっか」


 ならよかった、と。僕はそんな言葉を残して再度黙り込んだ。

 

 開いた窓からは少し冷たい風が吹き込む。本はその風に揺られて、ページが何枚かめくられていく。

 バサバサ。そんな音が静かな部に響いた。


「その、課題の本は読んできた?」


 彼女は頷く。


「どうだった?」

「よかった。すごく」

「そっか」

「あなたは?」

「あぁ、よかったな。すごく」

「そう」


 本来、評論と言うのはこんな曖昧な感想はいけない。より具体性を持った意見が必要なのだ。だから、僕は部長の立場として、本当は彼女にもう少し具体的な意見を言ってもらうことを強要しなければならない。


 でも、できないな。

 僕はこのやり取りが好きなのだ。

 曖昧で、単純で、静かなこのやり取りが。


 ちらりと、視線を彼女に向ける。

 あぁ、やっぱり僕は彼女が苦手だ。


 僕は少しは照れて、視線をそらす。

 彼女はずるい。

 僕は彼女の無表情から生まれる、極小さな微笑みが、

 より魅力的で、かわいくて、苦手なのだ。

 


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 すいません! タイトルに関して説明不足な点がありまして、ここで補足させていただきます!

 この物語は基本的に同じ部同士の各視点で描かれる構成となっているのですが、タイトルのカッコ内がside mであれば、男視点、side wであれば、女視点となっております! 

 今後もよろしくお願いいたします!

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