第20話
ヤノマンが帰ってくるまで机の上の書類に目を通してファイルに整頓する。
パソコンでデータ化してしまえばと思うが、ちょっと確認したい時にはやはり紙媒体がいい。
「買ってきたぞ。」
「ワリィ、あとで払うわ。」
「別に要らねぇよ。
玲香の事を助けてくれたからな。」
「俺は助けた記憶が無いが?」
「アイツ、梨園の事で相当困ってたからな。
何かしてあげたいけど、何をすれば良いか分からないとさ。」
「何もしなくていんじゃね?
ふつーに接してやってくれよ。」
「普通が難しいんだよ。
お前みたいに人の彼女を名前で呼び捨てられる程の神経を誰もが持ってるわけではない。」
「呼び捨てしない方がいいか?」
「いや、お前じゃなくなるから。
アイツも気にしてないみたいだし。」
「ならいいが。」
買ってきてくれたおにぎりを食べながら、残りの書類をファイルに仕舞う。
結局、来客は四時前だった。
「高城君、先方が来たみたいだから会議室に行くぞ。」
課長は受話器を置くと、声をかけてきた。
「明日から休みなのに悪いな。」
「いえ、指名との事ですから。」
俺と課長は並んで歩き、会議室の前で止まった。
ドアを開けると、見慣れた顔が……
「失礼します。」
俺と課長は中に入ると先方と長テーブルを挟んだ形で席に座った。
「高城君すまないね。」
声をかけてきたのは谷プロの社長さんだった。
社長を含めて四人が並んで座っている。
「紹介しよう。
私の右に座っているのがTSSO日本サーバーの運営事務局局長の萩原様。
左に居るのがうちの李梨園とそのマネージャーだ。」
『コイツが例のマネージャーか……』
「局長の萩原です。
本日は高城様にお願いがあって伺わせて頂きました。」
「初めまして、高城陸斗と申します。
萩原様のお顔はニュースなどで拝見させて頂いてます。」
課長は何が始まるのか分からず、居心地の悪さを感じてるみたいだ。
「早速、本題に入ろうと思うのだが……」
社長さんが話し始めた所に待ったをかけた。
「李さんにインカムを着けてもらっても良いですか?」
「あぁ、その方が良いね。
もう片方は君が着けるかね?」
「いえ、もう片方はテーブルの上に置いてください。」
社長さんは梨園にインカムを着けるようにと中国語で話した。
「聞き取れますか?」
俺は梨園がインカムを着けたのを確認すると、テーブルの上のインカムに向かって話をする。
梨園は頷いた。
緊張しているせいか、マネージャーが横に居て居心地が悪いのか顔は暗く沈んでいた。
「では、改めて。
今回伺ったのは萩原様から新しい事業の話を持ちかけられて、君の力が必要と感じたからだ。
詳しくは萩原様から話して頂こう。」
「それでは説明させて頂きます。
我が事務局では秋葉原を拠点としてTSSOに特化したVRアミューズメント施設を計画しております。
この施設はゲームセンターと云うよりも、テーマパークをイメージして頂きたい。
施設にはVRバージョンのTSSOを楽しんでもらうスペースの他に、イートインやアンテナショップ、VRシアターを併設した施設にしたいと考えています。」
萩原は身振り手振りで熱の入った説明をした。
「それは素晴らしいですね。
完成したら、TSSOをプレイしている自分は通う事になると思います。」
俺は素直な感想を言った。
「それで、その施設に於いてのプロデュースを高城様にお願いしたいと考えております。」
「私がプロデュースですか?
WEB広告やホームページ作成では無く?」
「はい、トータルプロデュースです。
コンセプトから、内装、運営まで含めてです。」
「ちょっと待って下さい。
何で私なんですか?
畑違いの素人ですよ?」
「説明しますね。
まず、谷プロ様の推薦でしたが高城様に関して調べさせて頂きました。
高城様はTSSOの日本サーバーでは最古参です。
運営事務局の中の誰より高城様の方が詳しいと意見が一致しました。
そして、施設の顔とも言えるマスコットキャラクターを谷プロ様の李梨園様にお願い致しました。
谷プロ様からは、高城様が受けて頂けるなら無条件で引き受けるとお言葉を頂きました。」
「なんとなく概要は分かりましたが、
間違い無く素人ですよ。」
「そこはチームとして、有識者をサポートに付けます。
チームの人選は高城様にお任せしますので、此方からはサポート以外は一切口を出しません。
高城様の決めた通りに進めさせます。」
「個人的には受けてみたい気もしますが、会社は首を縦には振らないと思います。」
「何が起きても此方の会社に被害を被らない様に、高城様には運営事務局の新規事業開発部の部長に就任して頂きたく思います。」
「この会社を退職するという事ですか?」
「出向という形になります。」
「少し席を離れても構いませんか?」
「どうぞ、ゆっくりと考えて下さい。」
俺は課長と会議室から退室した。
「どういう事ですか?」
「私にも話が分からない。
まさか、こんな大きな話だとは…
高城君的にはどうなんだ?」
「やってみたい気はします。」
「君はまだ若い。
やりたい気持ちが有るのなら、受けるべきだ。
もし、失敗してもここに戻ってくるだけだ。」
「…そうですね。
ここを辞めるわけじゃ無いですし…
先に会議室に戻りますから、課長は出向が可能かどうか確認してもらっても良いですか?」
「分かった、人事部で確認して社長に報告しておくよ。」
「宜しくお願いします。」
俺は課長を見送るとヤノマンに声をかけた。
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