第10話

はぁーやれやれやっと終業かよ。

8時間は長げーな。

トイレに何回行ったことやら(笑)


さて、ボイチャ用のヘッドセットを物色しに行くかな。

あの兄ーちゃんの店に行ってみるかな。


相変わらず、秋葉原は外人多いなぁ。

秋葉原って、オフィス街だよな?

昭和通り位だぞ?店があるの(笑)


あの兄ーちゃんの店の近くで何かウロチョロしてるのが居るな。

色んな奴に声かけられてるけど、かけたほうが逃げてくって何だろ?

かわいいっぽい女の子に見えるけど、実は男の娘?


いや、違うな。

日本語が分かんないんだな、ニュアンスは中国語かな。

よく見ると、いやガン見はしてないぞ?

…それなりだ。


うん?

見た事ありそうな…やっぱりそうだ。

グランプリ取った娘だ。

画像や、動画とはイメージ違うな。

澪とも違う気がする。


…どうするか?

放置か話すか。

でも、俺は日本語すら怪しいぞ?

でも、その気になれば秘密兵器があるんだな。


どうする…どうするんだ俺。

あの娘、泣きそうな顔になってるぞ。

仕方ない、玉砕覚悟で話しかけるか…


「失礼ですが、李梨園さんですよね?」

状況見えないだろ?

俺が話しかけたのはスマホだ。

翻訳アプリを入れてあるんだよ。


えっ?何でそんなものが入ってるのかって?

以前、外人のクライアントと直接話さなきゃいけない状況に陥ってな。

その時に使ったのを入れっぱなしにしてたんだよ。


兎に角、これが俺の秘密兵器だ。


スマホから聞こえる中国語にビクッとしたぞ?

やばい、やらかしたパターンか?


なんか、わけの分かんない言葉で捲し立てて来るんですけど?


「ちょっと待って。」

俺は手振りを交えて彼女を黙らせた。


「スマホに向かってゆっくり話して下さい」

スマホを介して話すと指でオッケーサインを出した。


彼女は落ち着いたのか、黙って頷いた。


俺はマイクアイコンをタップしてスマホを彼女に向けた。


「私の名前は李梨園です。

あなたは何故私の事を知っているのですか?

何故私に話しかけたのですか?」

うん、大体予想通りの事を言ってたな。


「あなたの事はニュースで知りました。

グランプリおめでとうございます。

私にはあなたが困っていて泣き出しそうに見えたので話しかけました。」


スマホから聞こえてくる声を聞いて、泣き出しそうになってるよ。


周りの視線も何かやな感じだな。


俺が悪者に見えてるのかな。

どっかに避難できるところが無いかな?

ドトールとかコーヒースタンドだと、まんまナンパになるよな?


…ちょっと離れてる所から俺を呼んでる声がするぞ?

あっ、昨日のパソコンショップの兄ーちゃんだ。


「リクさん!こっちこっち!」


呼んでるのは分かったが、何故俺をリクと呼ぶ?

名乗ったつもりは無いのだが?

何か言いたそうな表情をしてるけど、とりあえず移動しようとオーバーアクションで手を降っている兄ーちゃんの方を指差した。


手招きをして兄ーちゃんの所に移動したら、


「すいません、リクさんですよね?

確信は無かったんですけど、昨日お連れの方との会話で多分そうだなと。

俺もTSSOやってて、リクさんに憧れてたんです。

リクさんがフィールドに出ていた時代に居合わせたことがあって。

……リクさんの後衛が賛否両論で炎上した時です。

俺はすごいと思ったんですよ。

パートナーがダメージ受けた所を見た事が無いですから。」


……分かったよ、もういいよ。

俺の黒歴史を穿り返すなよ。


「彼女がキョトンとしてるから、それくらいにしてくれよ。」

「すいません、俺嬉しくて。

その娘はグランプリの娘ですよね、

澪さんに似てるからほっとけ無かったって感じですよね?

リクさんを呼んだのは手助けをしたかったからです。

ちょっと待っててくださいね。」

兄ーちゃんは奥に消えた。


……あんだけ喋りまくったんだから名前くらい言えよな…

あっ、帰ってきたよ。


「これ使って下さい。」

何だよこれ?

インカムか?


「とりあえず名前教えてくれよ。」

「あっ、すいません。

俺はボブって言います。」

「名札に佐野って書いてあるけど?」

「すいません、TSSOのネームがボブです。」

「分かってた(笑)

もしかして、弾幕のボブか?」

「知ってるんですか?」

「俺より有名じゃないか。

まあいいや、キョトンとしてる彼女と俺に使い方を教えてくれよ。」


ボブは彼女にインカムをつけると何か中国語で話してる。


「ボブは中国語が喋れるのか?」

「喋れないですよ。

ただ、外人のお客さんが多いので挨拶くらいは覚えましたよ。」


で、俺にもインカムを着けた。


「これ、トークトゥトークって自動通訳機なんですよ。

リクさんが日本語で喋ると、彼女には中国語で聞こえます。

彼女の中国語はリクさんには日本語で聞こえます。

スグレモノでしょ?」

ボブはスピーカーの横にあるボタンを押した。


「もう、喋って大丈夫ですよ。」

ボブは他のお客が居るからと店の奥に消えた。


「…あの良いですか?

分かりますか?

声をかけてくださってありがとう御座いました。

どうしたらいいか分からなくて…

本当に助かりました。」

彼女は梨園と呼んでくださいと握手を求めて来た。


「いえ、言葉が分からないのにごちゃごちゃ話してて不安だったでしょ?

ごめんね。

で、どうしたの?

何に困ってるの?」

リクと呼んでねと握手に応じた。


「実はカバンを無くしたみたいで。

お財布はポケットに入れる癖があったおかげで問題無いのですが、カバンの中にこれからの事をメモしたスマホが入ってまして……

所属した芸能事務所の名前もスマホが無いと分からないし。

泊まるホテルもスマホに……」


あー、全部スマホでやり取りするスマホ依存型の人なのね。

でも、分かるよ。

俺もそうだから(笑)


「スマホのセキュリティーは?」

「私以外使えない仕様にしてあるので大丈夫だと思います。

それに仮に中を開けても全て中国語ですから、読めないと思いますよ。」

「セキュリティーかけてあるなら大丈夫だと思うけど、後で処置した方がいいね。

ちょっと調べるから待っててね。」


スマホのブラウザを開いてと、履歴を見れば…

ネットニュースにあったと思ったんだけど…

ほらね、あったよ。


『グランプリの李梨園 (17歳) 

芸能事務所は谷プロに決定。』


あとは、虫めがねアイコンをポチッとな。

『谷プロ』で検索と。


はい、見つけました。

駅の向こう側か、詳しくはマップでナビるとして。

……連れてかなきゃ駄目だよな?

ありがちな巻き込まれイベントのフラグ立ってんだけど。

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