2 〇〇教師

 「なぁ、蒼井。お前に一つ頼みがあるんだ。」

 そういって朝食中、整った顔を向けてきたのは、うちの学校で国語教師をやっている長門鱗太郎だ。生徒からはそのルックスで絶大な人気を誇っている。

 父親の海外転勤で俺は、親戚筋に当たるこの教師の家に置かせてもらっている。

 「いいなー。家でも先生絶対カッコイイよ‼」

 「料理とかうまそうだよな。」

 このことをクラスメイトたちに話したらそうを言われた。

 男女ともに、人気があるのは普通にすごいと思う。そうなるように努力をしてるのだろうが、こいつの実の顔を知れば実にあほらしくなる。

 その実の顔というのは……

 「紗月ちゃんのスクール水着取ってきてくれませんでしょうか。」

 こういうことだ。


 俺たちの間に静かな空気が流れる。

 「さすがに今日のは、捕まりますよ。」

 「なに。冗談だよ。さすがに俺でもそこまでしないさ。」

 マジ引きしている俺を片目に、長門は席を立ちあがった。

 「ところで蒼井君や。時間は大丈夫なのかね?」

 テレビの時計欄を、確認すると8:00という絶望的な数字を示してあった。

 遅くても8;05くらいには、家をでなきゃ遅刻してしまう。ただ俺はまだ、制服すら着ていない。

 「まっ、遅刻しないようにな。」

 そう言って長門は颯爽に学校へ向かっていった。

 「こ、この変態教師がぁぁ―――」

 

 「はぁ、遅刻しなくてよかった。」

 文科系の部活で日々、体育以外には動かない俺にとっては、たった二00メートルほどの通学路でのダッシュは意外ときついものだった。小学生の頃は、地域のサッカークラブに入会し、日々汗水たらして練習していたものだが、中学生の今ではもう、まったくと言っていいほど興味をなくしてしまった。別に運動するのが苦手ということではなく、体育の授業も意外と楽しく受けているのだが……如何せん体力がなさすぎる。

 ゆっくり階段を上っていくと、クラス男子グループの姿があった。

 「おー。おはよう蒼汰。……お前寝ぐせやばいぞ。」

 そういえば髪直すの忘れてた気がする。まあそんなことはこの際どうでもいい。

 一応、ほかの取り巻きに挨拶。

 リア充は何で怒るか分からないから怖いよね。

 「おはよう、晃。」

 彼は、クラス内カーストトップである、屋久晃。サッカー部でイケメン。更には勉強もできて、万能人間。あの男と女子の人気を二分する存在だ。実際非公式ファンクラブも存在するかしないとかで……

 なんでこんな奴と仲良くなれたのか。

 それは、今までの人生で一番、偶然が重なりあった出来事であったと記憶している。

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

an orange 三寒ミサキ @mikanmisaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ