お邪魔しまーす!

俺は、水筒やら財布やらが入った、お気に入りのワンショルダーバッグを背負って、家を出る。

朝ご飯は、俺の大好きな鮭茶漬けだった。

朝から、好物を食べられて、足取りは軽かった。

あ…折りたたみ傘…。

忘れ物に気付き、回れ右をして、家のドアを開ける。

玄関に置いてある折りたたみ傘をバッグに入れ、言い忘れていた、行ってきますを言い、家を出る。

見慣れた、住宅街の間を通り過ぎ、踏切を渡り、並木道を通り、駅へ向かう。

鼻から大きく息を吸い、口からわざと音を出して吐く。夏の澄んだ空気が、目を覚まさせた。

駅に着き、階段を登る。

隣にエスカレーターもあるが、わざと階段を選んだ。

ただ、突っ立ってるのが、つまらないと思ったからだ。

改札を通り、いつもとは違う方向の電車に乗る。

こっちの方面に来るのって珍しいんだなーっと、今になって思う。

というか…新潟までなんて長旅…一人は初めてだ。

三時間ぐらいで着くらしいけど…

本当なのだろうか…。

意外と近いところに居たんだなと、早くも泣きそうになる。

電車にガタゴト揺られながら、俺は持ってきた、ヒーロー漫画を読んでいた。

「次は〜魚沼田中〜魚沼田中〜左側のドアが開きま〜す」

えぇっ、早っ。

やっぱ、漫画なんだよな〜と謎に首を縦に振り鞄に漫画をしまう。

って…ここが…駅…?

そこには、小屋の様な小さな建物があって、木の看板にあり、そこには、魚沼田中駅と書いてある…ように見える。

消えかけていて上手く見えない。

こんな所にいるのかぁ?

まぁいい、電話掛けよう。


俺は携帯をポケットから取り出して、美空の電話番号を打ち込んだ。

プルルルプルルル……

『もしもしー!夏樹!着いた?!』

「あぁ…えっとー、うおぬまたなか…?」

『そうそ!魚沼田中駅!!』

「俺はこっからどこに行けば良いんだ?」

てか、なんで美空こんなに嬉しそうなんだ?!?

『……ん?…あっ!迎えに行くの忘れてた!』

「おぉぉいぃぃぃ!!!!!!!」

『ごーめぇん!夏樹!いますぐそっち行く!』


右手と左手でジャンケンする、みたいな、某脳トレをしながら待っていると、足音が聞こえてきて、手元から目線を上げると、嬉しそうに笑う懐かしい顔がそこにはあった。


美空。美空だ。これは間違いなく、美空なんだ。

そんな当たり前の事を心の中で呟き続ける。すると、涙が出てきそうになる。

そんなに、俺は美空が好きだった…いや好きなんだ。

泣くな泣くな。さすがにまだ早いぞ。


「夏樹、久しぶり!」

「おうっ、久しぶり!!」


懐かしい声。大好きだった声。ずっと求めていた声。落ち着く。誰の声よりも美空の声が好きだ。どんな歌よりも美空の声が好きだ。大好きだ。


「じゃ、着いてきて!!」


美空が手を伸ばしてくる。

俺はこれをどうしたらいい。

前は悩まなかったのに…。

これが…意識してるってやつなのか…?


まぁ…好きだから……。

前よりずっと美空が好きだから……。





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