【完結】凄腕魔術師令嬢は竜王に溺愛される【カクヨム版】

木花未散

第1章 幼少編

プロローグ


 アリスティア・クラリス・セラ・バークランドの一番古い記憶は三歳の時のものだった。

 庭にいた彼女の魔力が暴走して吹き荒れる魔力風を、驚いた父親が一瞬呆気にとられたあと即座に結界を張り、やはり驚いていた双子の兄たちが遅れて父親を補助して結界を強化していた。母は乳母と侍女たちに庇われていた。

 それによって、荒れ狂う魔力風は抑え込まれ、周囲に被害を出さずに済んでいたようだった。

 その時の彼女は、静かに恐慌パニックを起こしていた。

 怖くて怖くて悲鳴を上げたいのに体は凍ったように動かず声も出せず。目の前の荒れ狂う魔力風は、結界の中で唯一結界が張られていない地面の芝生を刈り取るだけではなく土までも抉って巻き上げて。

 一部分だけとはいえ、バークランド公爵邸の庭は無惨な様相を呈していた。

 わずか三歳だというのに絶望に心を染めかけていた彼女は、そこに居合わせた兄達の友人に抱えられなだめられ、魔力調整を受けた後に意識を失った。


 後に聞いたところによると、父親一人では抑え込めない程の魔力の奔流で、父親から焦った声かけがあったために兄たちが慌てて補助し、三人がかりでようやく抑えこんだとのこと。そしてアリスティアの魔力回路の調整をが行ってくれなかったら彼女の魔力回路は焼き切れて傷つき、回復に数年を要していたのだと聞き、アリスティアは父親と双子の兄たち、そして兄たちの友人に大いに感謝したものだった。





 魔力暴走の結果としてアリスティアは熱を出して寝込んだ。


 寝込んだ間に奇妙な夢を見た。

 そこではアリスティアはもっと大きく、学生として生活し、でも勉強は余り好きではなく、本を読んだりゲームしたり、インターネットを使って雑学を調べる事が好きな平凡で大人しい性格の少女であった。

 唯一の友人は変わった趣味を持ち、『彼女』にもそれを布教してくる。それを笑いながら躱すも、友人の趣味を否定する事はしない。

 自分の好きな本のジャンルはライトノベルで、ファンタジー系がほとんど。剣と魔法の世界で、人間以外にも亜人と言われる人間以外の種族、エルフやドワーフ、獣人など、それに吸血鬼、竜などの人外が出てくる話が好きだった。憧れていたと言ってもいい。

 ライトノベルだけではなく、古典ファンタジーと言われるものも読んだ。

 好きな本のジャンルがそれだから、ゲームも同じようにファンタジー系のロールプレイングゲームと言われるものが好きだった。ファンタジー系でもアクションゲームとなると、反射神経のせいか上手く操作できないためにやられる事が多く、一作やってみただけでその後は手出しをしなかった。

 そんな『彼女』の記憶は楽しかったが、そこまでくるとアリスティアにも理解できた。これは自分の前世の記憶だと。前世の『彼女』がよく読んでいたライトノベルでありふれていた『異世界転生』をしたのだと。

 ただし『彼女』の死因が何なのかや、名前、家族の事などは朧げでまったくわからなかったけれど。

 それでも三歳のアリスティアには衝撃的な内容で、膨大な記憶を受け入れる容量キャパシティも小さい為、普通の魔力暴走では三日三晩で収まる発熱が一週間に延びてしまった。

 そんな経緯で彼女は以前の自分と前世の自分を融合させ、現在の『アリスティア』になったのである。


 熱が下がって目を開けた時に、アリスティアの父母、アーノルドとローゼリア、双子の兄のエルナードとクリストファーの姿がベッドサイドにあり、なぜかそこにも同席して居た。

 その家族の姿を認めた途端、ああ、無事で良かった、とやっと安堵した。

 その後は発熱で奪われた体力を戻す為に、毎日午後から二十分、庭での散歩をし(なぜか三日に一回はルークが付き添っていた)、少食になってしまったが為に、朝昼晩の三食の他に、食事の合間に軽食や甘い焼き菓子が供される様になった。それをアリスティアは頑張って食べて、やっとの事で一ヶ月後には以前通りの食欲と体力に戻った。三歳児の食欲と体力でしかないが、以前と同じに戻った事で周囲も安心した。






 彼女が魔力暴走を起こし、熱が下がった後、父親は彼女に魔術師の家庭教師をつけて魔力の制御を重点的に学ばせた。

 彼女は努力した。本当に三歳児とは思えない程の努力をして見せた。他の勉強も頑張ったけれど、それ以上に魔力制御を頑張り、わずか三ヶ月で制御法を会得して見せたのだ。

 中身が以前のアリスティアではなく、前世の『彼女』と融合した事で三歳児と思えないほどの落ち着きと集中力を身に着けたがゆえの結果だった。


 また魔力暴走を起こして、優しくて大好きな父や兄達を傷つけるかもしれない恐怖は彼女の心に根ざしていたけれど、制御可能になって魔力の流れが安定すると、父親に大げさなくらい褒められた。それは彼女にとって最大のご褒美で。大好きな双子の兄達も褒めてくれて、彼女はやっと安心できたのだった。

 

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