第十章 命を燃やし尽くす猫
食事の時、残したまま食べ終わる事が、春を過ぎた頃から顕著になってきました。
最初は「残すくらいが丁度いいのかも」と思ってましたが、母はタロの変化を色々と感じってました。
少しずつだけど痩せてゆき、寝ている時間が増えて、パトロールもほとんどしなくなりました。
もっとも顕著だったのが、背中です。
撫でると、脂肪や筋肉の張った丸みではなく、背骨のゴツゴツ感が、ハッキリと解ります。
私は、年を取ったから仕方ない。くらいに考えておりましたが、母はとても心配しておりました。
ですので、週に一度の血糖値検査ではない日でしたが、病院に連れて行って、診てもらいました。
水分や栄養分の入った注射をしてくださる先生は、遠回しながら、老衰だと教えてくれました。
つまり、病気ではなく、自然と寿命が近づいている。という事です。
それから一週間ほど、私たちは毎日、先生のもとで水分と栄養分の注射をしていただきました。
この頃はもう、糖尿病の治療どころではありません。
体重は減ってゆき、体も痩せてゆき、血糖値が高くても、逆にインスリンの注射は危険だと判断されました。
とにかく、タロが食べてくれればなんでも良い。
そんな思いで、様々な食べ物を与えました。
この頃が、タロの一生で一番、好きな食べ物を好きなだけ食べていた時期かもしれません。
普段は、一日一度のストレスケアの意味もあって、十五歳以上用の生タイプを与えてました。
この時期は、それこそ鰹節からコーヒーミルクのポーションから人間が食べるツナ缶のツナからその油まで、食べれば何でも与えました。
しかし、一回食べて、私たちが喜んで次に与えても、もう食べようとはしません。
一日に食べる量が減ってゆき、病院での注射が栄養源の殆どという状態で、体重も減って、六キロを切りました。
家でも、タロの近くに水やごはんを置くと、イヤがって少し離れたところまで這って逃げます。
母も「お願いだから少しでも水をのんで」と、祈るように言葉をかけてました。
そんな状態が一週間ほど続いて、タロに対する私たちの行為は治療ではなく延命だと、家族みんなが納得するしかありませんでした。
いつものように病院へつれてゆき、血糖値を測って、水分と栄養分の注射をする際に、先生と話し合いました。
病院の先生は、患者家族の意思を尊重してくれます。
家猫であるタロにとって、どんな病院でも喜びませんし、これ以上の延命は、タロにとって辛いだけなのでは。
そう思って、先生にお伝えしました。
先生も納得してくれて「何かあったらいつでも電話してください」と言ってくださり、私たちはその日から、タロの注射もやめました。
それから更に一週間ほど。
八月も初旬が過ぎて、それがタロの、最後の一週間になりました。
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