第五章 注射とごはん
血糖値を測って、インスリンを注射してもらう。
一日に、朝と夕方の二回通っていた病院も、タロの体が安定してくるに従い、一日一回になり、三日に一度になり、一週間に一回と減ってゆきました。
同時に、飼い主としてやらなければならない事が、あらたに発生します。
インスリンを、家庭でタロに注射する事です。
お医者さんに指導をしてもらい、まずは病院で注射。
この頃のタロは、筋力が戻ってきたとはいえ、まだ背中の皮膚をつまむと引っ張れるくらい痩せていました。
注射は、血管とかではなく皮膚の下に注入すれば良しでした。
手順としては、注射器にキャップ付きのまま針を装着して、キャップを外し、冷蔵庫から取り出したインスリンを指定の量だけ吸入します。
背中の皮膚を引っ張ると、筋力が足りないせいか、ベロン、という無力な感じに伸びます。
注射したい場所を消毒綿で清潔にして、引っ張った皮膚の根本あたりに針を刺して、インスリンを注射。
ピストンが戻らないように抑えながら針を抜いて、注射したあたりを再度、消毒綿で清潔にします。
針にキャップをして注射器本体から取り外し、使用後の針は同じ袋に纏めておきます。
インスリンの瓶を冷蔵庫で保管しておしまい。
家庭での注射が始まった頃は、これを一日二回、十二時間おきに注射してました。
注射そのものは慣れれば大丈夫なのですが、大丈夫でないのはタロ自身といいますか。
注射をするにはジっと動かないでいてくれる必要があるのですが、そんな家族の気持ちなど、猫に通じるはずも無し。
両手で抑えている時はジっとしていても、注射器や消毒綿に片手を伸ばすと、チャンスとばかりに脱走を試みます。
結局、母が取り押さえて私が注射。というチームプレイが、いつの間にか確立しておりました。
食事も、この頃に大きな変化がありました。
普通の猫用の餌では、食べる量に対してエネルギーが大きく、与えられる量が少しになってしまい、タロの食欲が全く満たされなくなってしまいます。
なので、とにかく食事制限として、脂分の少ない食べ物を探しました。
幸いタロは、鶏のささ身が好きだったので、常にササミを用意して、茹でて与える。というのがメインメニュー。
喜んで食べるので、これは良かったと家族で安心していたら、同じメニューが続いたせいか、ある日トイレに砂をかけるように、前脚でササミに砂かけジェスチャーをして、食べなくなってしまいました。
それから更に、色々な食べ物を試して、病院に行ったときに血糖値を測る。という、試行錯誤の繰り返しです。
猫用のチーズみたいなおやつを与えたら血糖値が一気に上がって慌てたり、鰹節も安い物は食べず、ちょっとお高い物は食べたり。
とはいえ、私たち家族にとっての利点もありまして。
猫が食べないような値段の食材は避けるようになり、コーヒークリームのポーションも、以前より単価の高い商品に変わったりしました。
それでも、食事は毎日の事なので、やはり安定して与えられる餌が必要でした。
獣医の先生に相談した結果、糖分を調整された専用の餌を教えていただきました。
いわゆる糖コントロール、略して「糖コン」の餌は、医療扱いなので、お医者さんに注文していただいて、入手します。
初めて与えた時は、タロもコタローもよく食べたので安心しておりました。
しかしすぐに喜ばなくなり、、つまりは珍しがって食べた。という感じのようですした。
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