四畳半の悪夢


 放置し続けていた部屋というものは、非常に悲惨なもので。

 とりあえずいるものといらないものを分けてみたものの、いらないものが多過ぎて、どこから手をつけたらいいのかわからない。


「…どうするかなあ、これ…」

 そう呟いた矢先に、いらないものががらがらと盛大な音を立てて崩れ落ちた。崩れた場所から立ち上る悪臭。驚いたようにわっ、と飛び出してくるはえ。この世で一番聞きたくない不協和音コンサート

「ぎゃぁああああ!?もう、さいっっあく!!!」


 ここまで部屋を放置しておくべきじゃあなかった。苦手だからこそ先にやらなくてはいけないのに、どうしても先延ばしにしてしまう。ああ、私は本当に片付けが苦手だ。

 部屋の中で生ものを腐らせてしまった私がするべきことは1つしかない。薬局にダッシュで駆け込み、必死で装備をかき集めた。長袖長ズボン長靴ちりとりほうきゴム手袋輪ゴムマスク。長靴はやり過ぎかな、と思ったが、ずぼらな私のことだ。片付けの最中にうっかり腐敗した何かを踏みかねない。

 ガス感知器の電源を切り、しこたま買い込んできた殺虫剤をこれでもかと部屋中に振り撒く。ぼとりと落ちた蝿が、足を縮めて死んでいく。液状化した悪臭の元。最悪だ。全てが気持ち悪い。虫と腐敗物のダブルパンチで気を抜くと吐きそうになる。尤も、原因は怠惰な自分にあるわけだが。


「うわっ…これは何だったんだろう…マジで分かんないな…」

 コンビニで買ってきたお惣菜の容器にべったりとついたそれの正体がふと気になった。しかし、これ以上部屋をこのままにしておくとさらに痛い目に合うのが分かりきっていたので、私は掃除に集中することにした。

 腐敗物に侵食されたカーペットはまとめてポイ。大きいものは細かく切ってポイ。触りたくないものは箒とちりとりを使って周りのものごとポイ。最後には消臭アロマなんか置いちゃったりして。


 丸々1日掃除に費やした結果、私は自分の聖域を確保することが出来た。

「おぉ…やれば出来るじゃん、私」

 見えなかった床が見えるようになった。これはすごい。アパートの内見以来見ていなかったそれに、私はしば見惚みとれた。

 玄関をふと見遣みやると、たぐいを見ない程みちみちにふくれ上がったゴミ袋がうず高く積まれている。明日が可燃ゴミの日で本当に良かった。運がいい。

 コンビニにお祝いの高級アイスでも買いに行こうと、私は達成感に酔いしれながら外に出た。


 ドアを開けるとこんあか。飛行機雲が一筋。


 ああ、ちゃんと片付いてよかった、と私はわらった。

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