新章プロローグ

力持つ者

 力というものは、持つべき者が持たなければならない。

 正しい使い方をすれば正義となり、間違った使い方をすれば悪となる。力というものはコインのように表裏一体だ。

 ルクスという少年は力を持って生まれた。その身に余る力のせいで孤立し、いつしか彼は力を隠すようになっていた。

 この力を捨てることができたらどんなにいいだろう、とルクスは思う。

 自分のために力を使えば悪と見なされ、他人のために力を使っても結局は誰かを恐怖させることになる。

 それならば、力など使わない方がいい。たとえ抑圧の中で生きることになったとしても、その方がいい。

 しかし――


「やめてください!」


「いいじゃねぇか、ちょっと食事に付き合うくらい。おごるって言ってんだからさ」


「嫌、離して!」


 こういう場面に出くわすと、ルクスは黙っていられないたちであった。


「おい」


 男の振り向きざま、みぞおちに掌底を打ち込む。

 かなり加減したつもりだったが、男は軽々と吹き飛び壁を突き抜けて姿を眩ませた。

 横目で少女を見やる。その瞳は恐怖に潤み、ただ立ち尽くしている。


「はぁ、またやっちまった……」


 コートの裾を翻し、ルクスは足早に路地裏へと消えていった。

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