レテイシア
翌日、吹雪は晴れた。
この機を逃すわけにはいかない。またいつ吹雪が来てもおかしくない。
俺たちは一心不乱に足を動かした。いや、もはや一心不乱を通り越して無心だったかもしれない。
その甲斐あって、雲をくぐり抜ける頃には頂上が見えるようになっていた。さらに嬉しいことに――
「ねぇ、あれって……小屋じゃない?」
「よかった……仙人は存在するみたいだ……」
岩のごとき小屋が蜃気楼ではないことを祈りつつ、俺たちは歩みを速めた。
小屋は幻ではなかった。石を積み上げて作られたそれは表面が風化しており、今にも崩れそうなくらい脆く見えた。
「あのー、誰かいますか?」
暗闇の中に声をかけたが、返事はない。
小屋があるってことは誰かいるはずなんだけどな。まさかとっくの昔に死んでるとか――
「あらあら、人間が訪ねてくるなんて何百年ぶりかしらね」
――いる。
こんなところで生活してる人間がマジでいるんだ。ってか、何百年ぶりって……この人、本物の仙人なのか?
背後に立っていたのは女。
色素の抜け落ちた髪は雪よりも白く、カーテンのように腰を覆い隠している。前髪は両端が切り揃えられており、その間から鈍色の瞳を覗かせている。
身体には古代ギリシアのキトンのようなぼろ布を纏っており、それでいてみすぼらしさは感じさせない。むしろ、女神のごとき神々しささえも感じさせる。
ベルズほどではないが、俺よりも頭一つ背が高い。一見すると若いが、「何百年ぶり」が脳内にこびりついているせいか年齢という概念がゲシュタルト崩壊してしまう。
「名前なんていくらでもあるけれど……今はレテイシア――レティとでも呼んで」
「あ、俺はバース、こっちはチェリーコードです。仙人と会うためにここまで来たんですけど……レティさんが仙人なんですか?」
「仙人……かどうかはわからないけれど、ここに住んでいるのは私くらいしかいないわ」
「じゃあ――」
「立ち話もなんだし、続きは中でね。わざわざこんなところまで来てくれたんだもの、お願いの一つや二つは聞いてあげちゃう」
よかった。仙人は実在して、おまけに協力的。これなら力を取り戻せそうだ。
ほっとすると全身の力が抜けてふらついた。情けなくレティに支えられたが、不思議と悪い気はしなかった。
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