獣の王
俺たちは密林の獣たちと生活を同じくした。
昼の間は仮眠を取りつつ少しでも歩みを進め、夜になれば拠点を構えて獣たちを迎え撃つ。
獣の死体が獣を呼び寄せ、朝になると血の海が出来上がっている。どんなに殺そうとも獣に恐怖はない。無限に湧いてくる。
太陽の浮き沈みを幾度となく繰り返し、そのたびに疲労が蓄積されていった。体力も精神力も限界に達しつつあった。
「私たち、ここで死ぬのかな」
「……さあな」
気分は沈み、口数も減った。
希望がない。いつになればこの密林を抜けられるのかわからないし、仮に突破したとしてもさらに過酷な山を登らなければならない。
憂鬱を押し殺して勾配を滑り降りると、獣と血肉の臭いが鼻を衝いた。
しまった。やつらの縄張りだ。
気付いた時にはもう遅い。
俺たちは逃げる間もなく獣たちに取り囲まれてしまった。
「絶対絶命、か……」
奥から現れたのは一際の巨躯を持つ獣。やつは俺たちを品定めするかのように、ゆっくりとこちらへ近付いてくる。
「お前がこいつらのボスか。食いたきゃ食えよ。俺はお前たちの仲間を散々殺した。食われても文句は言えない」
獣のボスは俺の全身を嗅ぎ回し、喉を低く唸らせた。
――食らえ。
しかし、獣のボスが俺の肉に牙を立てることはなかった。くるりと背中を向け、一族を率いて去っていった。
恐らく俺の身体に染みついた血肉の臭いが俺を一動物の長と認めさせたのだろう。
「た、助かったわね……腰が抜けちゃった……」
「ったく……ほら、お姫様抱っこしてやるから」
この日を境に、俺たちが獣に狙われることはなくなった。
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