密林の獣

 鬱蒼と生い茂る密林。

 空気は湿っぽく、歩いているだけで衣服と肌が濡れてくる。


「湿気が多いわね。頭が痛くなってきたわ」


「さっさと抜けてしまおう。長居すると体力がもたない」


 とはいえ、木々に覆われて先が見えない状況だ。闇雲に進み続けても埒が明かない。かといって、立ち止まるわけにもいかず、打開策があるわけでもない。

 じきに太陽が沈む。暗くなればさすがに動き回れない。

 早速絶望的な状況に陥ってしまった。

 光が遠のいていくにつれ、俺の焦燥と後悔は滲むように広がっていった。

 仕方ない。そろそろ拠点を作るとしよう。しっかり休んで、明日に備えなければ。

 テントを張り、火を起こす。缶詰のスープを温め、干し肉を齧る。

 そうこうしているうちに、すっかり夜になった。

 気温が下がり、湿気で身体が濡れているせいも相まって肌寒い。今夜は火にあたっていなければ眠りにつけないだろう。


「悪かったな、チェリーコード。こんなことに付き合わせて」


「謝ることないわよ。私がついてきたかったからついてきたの。それに、こんな辺鄙なところでもバースと死ねるなら別に構わないわ」


「……馬鹿、生きて帰るぞ」


 俺はチェリーコードの肩を抱き寄せた。

 吐息が触れ合う距離。視線が繋がり、唇が近付く。


 ――がさっ。


 何かが地面に落ちた葉を踏みしめる音。

 俺は咄嗟に銃を手にした。

 何かが疾走してくる。

 火を飛び越えてきたのは狼のような獣。見た目こそ狼に似ているが、その体躯は俺が知っているものとはかけ離れている。

 幸いにも腕は衰えていなかった。

 弾丸は獣の眉間に突き刺さり、脳を破壊して虚空へと消えていった。


「最高のイチャイチャタイムだな。チェリーコード、今夜は俺から離れるなよ」

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